著名な心理学者がケルトの地を巡って感じたこと

「ケルト巡り」河合隼雄(NHK出版)

著者の河合隼雄氏は、私にとっては大きな影響を受けた方の一人です。今から40年前の学生時代、京都で下宿していた深夜、何気なくNHKの番組を見ていたら河合隼雄氏がユング心理学について話をしていました。なんとなく見ていたのが、こんな考え方があるのかと、その話に引き込まれ身を乗り出してしまった記憶があります。その後、河合氏の本を読み、さらにユングの本を読むようになりました。

無意識、集合無意識、元型・・・といった考え方、神話や民話からその無意識の世界を読みとき、氏の日本について中空構造という考え方には特に衝撃を受けましたし、納得ができるなと痛感したものです。氏は間違いなく精神世界にも多大な影響を与えたし、様々なジャンルにも造詣も深く、ほんとに素晴らしい知性の持ち主だなと尊敬しておりました。

その河合氏によるヨーロパの古層に広がるケルト文化へアプローチした本。図書館で見つけたので借りて読んでみました。久しぶりの河合氏の本だったのですが、氏の考え方の深さにあらためて感動。この本はケルトの紹介というよりは、ケルトの考え方から日本のあり方を考えてみようというもの。17年も前の本ですが、ネットやSNSが普及し誰もがインターネットで情報を取ることが当たり前のような時代になった今だからこそ、一見無駄かと思われるような風習や文化に視野を広げ、自分自身を生きていくという河合氏の提案は響いてくるように思いました。

この本はNHKの番組から派生した本ですが、テレビは流しづらいという現代によみがえられたドルイド教の儀式やその当事者へのインタビュー、「魔女」の看板を出している現代魔女を名乗る女性へのインタビューなど興味深い内容も盛り込まれています。特に面白いなと感じたのは、ケルトは基本文字を持たない文化だったので、ドルイド教の伝承も曖昧模糊としており、様々な要素が加わった現代版ドルイド復興でありこと。そこに関わっているのは大学の教授といった知識人が加わっているといいます。

そしてもう一つは、魔女と名乗る女性がクライアントからの相談で、タロット・カードを使うのですが、魔女と名乗る女性はタロット・カードに現れたカードを話のきっかけに、決してこうすべきと断定をすることなく、クライアントに話をさせクライアント自身で解決していく触媒となっていること。これについて河合氏は心理療法と同じだと書いていることです。クライアントは問題を抱えてやってくる、その問題は無意識の中にあり、意識から無意識に働きかけることは難しく記号(タロット)からだと可能だと言います。それが魔術なのだと。なるほど~。

河合氏の含蓄ある言葉『人は「それがすべてだ」と思った途端に不安になる「それもある。これもある」というのが大事なのだ。』ケルトが色濃くのこるアイルランドにはそうしたことが残っているようですね。一度行ってみたい場所となりました。

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