あれは夏の夜の夢だったのか・・・「白いドレスの女」

映画「白いドレスの女」(1981年)
■監督:ローレンス・カスダン
■出演:キャスリーン・ターナー、ウィリアム・ハート、他
うだるような暑い夏の夜、浜辺で開かれたジャズコンサートの会場を、一人の白いドレスをまとった女性が後にする。それは誘惑か、それとも罠か。1981年、キャスリーン・ターナーのデビュー作「白いドレスの女」は、40年以上の前の映画なんですが、不思議な魅力を放つフィルム・ノワールです。
弁護士ネッドは、人妻マティとの情事にのめり込み、やがて殺人へと手を染めます。だが物語は、単なる愛欲の転落劇ではない。むしろこれは、いかにして倫理の輪郭を曖昧にし、人を支配するかという心の迷宮に切り込んだドラマと言える。
ネッドを殺人へと導いたマティという女性は、男を破滅に導くファム・ファタール。彼女は、恐るべき悪女。弁護士という職業に狙いを定めて、まんまと夫の巨額の財産を手にするマティを見ていると、いかに男性はツボに、はまると女性の手の内に落ちやすいか、が見て取れます。男性は女性の計算された誘惑に、盲目になって判断があやふやになってしまう。この2歩も3歩も先を行くマティという女性がすごいのだ。
マティ演じたキャスリーン・ターナーは、セクシーな女性としての魅力もさながら、己の欲望に忠実に、知的で計算も鮮やかに、男を支配していく女性をこれがデビュー作だったとは信じられないくらい見事に演じている。
タイトルにある、男と女のファーストコンタクトで彼女が着ていた白いドレスは、清純の象徴である白と、欲望を可視化する身体のラインの強調という、両方の意味合いを持たせることで、実に巧みだなと映画を観終えたあと感じさせます。白いドレスは、完全犯罪を成立させるための、計算された知性の罠だったのでしょうか?
うだるような暑さは、男の感情のタガを緩め、理性を曇らせてしまう。その空気に溶け込むように現れたマティは、こうであったらいいなという女性像をネッドに芽生えさせ、虜にし、あげくは殺人まで犯させてしまい、共犯と思いきや結果的にあざやかに裏切ってしう。最初は遊び、と思って近づいた男。それも計算のうち、女はうわてだった。どこかで早々と手をきるべきだったけど、それもあとのまつりか・・・・・・まさに夏の夜の夢のような出来事なのかもしれない。