愛と苦悩の交響曲が響く「マーラー」

映画「マーラー」(1974年)

■監督:ケン・ラッセル
■出演:ロバート・パウエル、ジョージナ・ヘイル、リー・モンタギュー、他

鬼才ケン・ラッセル監督の『マーラー』は、単なる伝記映画ではない。ラッセルが描いたのは、作曲家グスタフ・マーラーの象徴的な出来事に対する心象風景を、ラッセルの独自解釈でイメージフィルムのように映し出す。

映画は、マーラーが妻アルマと共に列車で避暑地からウィーンへ向かう一日の旅を軸に進んでいきます。車窓の風景は、彼の記憶と幻想を呼び覚まし、過去と現在、現実と幻覚が交錯する。マーラーはその旅の中で、自身の出自、信仰、愛、芸術にまつわる数々の葛藤に向き合う形になっている。

私はマーラーに関して詳しくはない。だけど、そこに映し出される映像表現が当時としては過激なのでそう感じるのだ。映画を観ていて、マーラーは神経質な男だなと思っていたら、ホームでルキノ・ヴィスコンティの映画「ベニスに死す」の博士と美少年そっくりの人物が戯れており、あれ?と思った。名画「ベニスに死す」はマーラーの交響曲が使われているし、原作のトーマス・マンは博士のモデルに、自身とマーラーを参考にしたというエピソードがあるように、ラッセルが気になったことを、ごった煮でぶち込んでいるみたいなのだ。

マーラーの妻アルマは、画家クリムトはじめ多くの芸術家と浮名を流したようで、彼女への嫉妬の苦しみが、生きたまま棺桶に入れられ火葬される悪夢を見たり、活躍の場に恵まれない不運な芸術家の仲間や弟の死などインパクトある映像が流れます。

極めつけが、マーラーはユダヤ人なので、職に就くためにカトリックに改宗すればいいと考え、それをナチスを想起させるカトリックの女性兵士の姿を模した象徴的な映像だ。この映画の中でも印象深い映像となっています。映画にはマーラーや敬愛したワーグナーの音楽が使われそれも興味深いです。

ラッセルは映像美的に凝っているというイメージは、私にはありませんが、そこに持ってくる象徴表現は強烈なものが多いなと感じています。当時のクリエイターたちは、そうした表現に対して否定的な見方をした人もいたんだろうなと思いますが、逆にインスピレーションをもらった人も多いのでは?と勝手に想像をします。

映画の冒頭は、湖畔のマーラーの作曲のための小屋が、爆発と言うかいきなり燃え始めます。それがこの映画のすべてを表しているようにも感じたのでした。

Follow me!