それでも人生は続く「大樹のうた」

映画「大樹のうた」(1958年)

■監督:サタジット・レイ
■出演:ショウミットロ・チャテルジー、シャルミラ・タゴール、スワパン・ムカージ、他

サタジット・レイ監督のアプー三部作の最後は「大樹のうた」は、アプーの青年期から父になるまでを描き、愛と死、そして父という普遍的テーマを浮かび上がらせます。

カルカッタに暮らす青年アプーの姿から始まる。両親を姉を亡くし、天涯孤独の身、作家を志しているが生活は貧しく、未来は不透明だ。こうしたところが父親譲りな感じもする。そんな彼に思いがけぬ転機が訪れる。結婚式に招かれたアプーは、花婿が直前に精神を病んで式が破談となり、花嫁の名誉を守るため代わりに結婚してほしいと友人から懇願される。そんなことあるの?と思いながら、強引に成立した結婚。

初対面の花嫁だけども、やがて2人には愛が芽生えるも、その幸福は突然、断ち切られる。出産のために帰省していた妻が出産時に急死するのである。妻を失ったアプーは絶望の淵に沈み、作家の夢も捨て、子どもを受け入れることもできず、放浪の旅に出てしまう。

「大地のうた」で純真な眼を輝かせていたアプーに死神がやどっているのか?肉親や兄弟がなくなり、今度は妻だ。3部作なので、各回次々と死を迎えるのは物語の構成上、仕方がなかったのかもしれない。映画は、生きていくこととは?生と死とは?家族とは?人生とは?といったふうなことをテーマにしているので、死というのは大きなことだから。この映画が、とても教務深いのはアプーの立身出世物語ではないところ。貧乏で苦労したけど学問して出世したという話ではない。アプーは学問を学ぶも、仕事にありつけず、結婚したとおもったら、妻が死んでしまった。絶望と苦悩が待っているのだ。アプーは父親であることを拒み、人生そのものを放棄するかのように漂泊する。

年月が経ち、アプーはようやく息子と向き合う決意を固める。初めて会う父に対して、息子は反発し、受け入れようとしない。しかしあきらめてまた旅に出ようとするとき息子が声をかける。っそして二人は道を歩きなおすのだ。

レイは人間存在の儚さを映し出しながら、なお生き直す力があることを静かに伝えているだ。サタジレット・レイの「大地の歌」「大河の歌」「大樹のうた」は普遍的テーマを扱い繊細に描いていて、現代映画には見ることができない余白をたくさん含んだ作品だった。今だからこそ見る価値がある名作と思う。

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