性的エネルギーに悩みつつ映画「夏の夜は三たび微笑む」

映画「夏の夜は三たび微笑む」(1955年)
■監督:イングマール・ベルイマン
■出演:ウラ・ヤコブソン、エヴァ・ダールベック、ハリエット・アンデルソン、他
この映画はコメディ仕立てに作られていますが、なかなか侮れない深さを持っている作品出あると思います。字幕をおいかけながら漫然として見てしまうのですが、時々ハッとさせられるような表層の部分には現れでていない深さのようなものを感じてしまうのです。それは監督のベルイマンが意図したかどうかはわかりませんが、見る者が勝手にあれこれと考えてしまう演出の仕掛けなのかもしれません。非常に濃密な奥の深い映画であると感じました。
この映画のベースにあるのはフロイト的なリピドーによって突き動かされている人間模様と言えばいいのでしょうか、登場人物は貴族的な衣装を着ていながらも無意識に己の性的なエネルギーによって支配され動かされています。弁護士の中年紳士は女好きで現在は自分娘のような妻がいる、その妻は結婚しても依然処女のままという状態で夫の浮気癖に苦しんでいる、先妻の息子である神学生の若者は性的な欲望に苦しんでいる、その家の陽気なメイドはお尻と胸を強調し神学生の息子を誘惑する、弁護士の元彼女の女優はフェロモン撒き散らし自在に男を行き来する…といった具合にだ。それらみな性的なエネルギーに支配された人間たちなのであります。
そうした無意識のエネルギーに支配されたことから起こる現象において人間は太古から格言を用意して戒めていたように、この映画にも登場人物らの台詞によって格言めいたことを言わせています。それがユニークで面白い。性的エネルギーこそは煩悩そのものであり、格言はそうした煩悩に支配された現実世界を生き抜く知恵なのであるから…。ところでそれぞれがそれぞれの欲望に忠実になるがゆえに少しだけ錯綜している男女関係を描いてているこの映画は、最後にロシアンルーレットまで導入して話を強引にハッピーエンドに持ち込みます。「ディアハンター」よりも十数年以上も前にロシアンルーレットを素材として活用していたのは驚きました。「人生は素晴らしい」「夏の夜の三度目の微笑みよ」と言わしめて大らかに性と生を肯定する力強さ、所詮この世は男と女しからいないのだから。コメディ仕立てで少々話に無理があっても意外と学び?が多い非常にユニークで良質な作品であったと感じたのであります。

