世界で最も美しい本と言われる「ケルズの書」
世界で最も美しい本「ケルズの書」
世界で最も美しい本と言われているのが「ケルズの書」です。
この「ケルズの書」とは、1200年前の9世紀初頭、スコットランドのアイオナ島の聖コルンバゆかりの修道院で着手された聖書のこと。その本が創作されている時に、アイオナ島はバイキングの襲撃を受け60人もの修道士が殺されたそうです。生き残った修道士は命からがらアイルランドへ逃げ、ケルズに避難することに。創作途中であった「ケルズの書」はそこで完成されました。この書はラテン語でマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの福音書が書かれ、渦巻文様や動物文字の装飾を施され他に類を見ない美しすぎる聖書だった。この聖書がアイルランドの至宝で世界で最も美しい本といわれる「ケルズの書」なのでした。
全体がケルト文様で満たされ、色彩、装飾など聖書らしからぬ装丁の唯一無二の本。書物芸術の最高峰とされ、ケネス・クラーク、E・H・ゴンブリッジ、ハーバード・リード、ウンベルト・エーコなど美学芸術学の大家からも絶賛を受けている。美しく華麗に装飾されたこの聖書は、 ダブリンのトリニティ・カレッジの旧図書館に展示されていて、アイルランドの至宝であるこの本を見ようと年間50万人もの人が世界中からやってくるそうです。(ただ、私はアイルランドには行ったことがなく、いつか見てみたいという想いを持っています)
私がこの「ケルズの書」の存在を知ったのはアイルランドのアニメ映画「ブレダンとケルズの秘密」(■製作年:2009年■監督:トム・ムーア)という映画を見た時です。物語はこの書ができあがるまでの様子を、幻想的かつ煌くような美しい映像によりファンタジックに展開していきます。そこには「ケルズの書」を完成させる若き修道僧と森のオオカミの妖精アシュリンとの交流も描かれ、それがちょっとほろりとする感動的な話でもありました。キリスト教の修道士と妖精との交流が、いかにもケルトっていう感じでとてもいいのです。
あまりにも美しい渦巻文様とともに、要塞の外の世界のみずみずしい森の緑、闇の世界の深い青など色彩が豊かなで魔法的な世界観が、夢のように素晴らしいのでした。この夢幻的な映画に魅せられたわけですが、この映画のベースとなっているのが「ケルズの書」であり、そのような伝説的な本があるのを映画を通して初めて知ったのでした。
この「ケルズの書」にどんな絵が描かれているのか?私は図書館で「アイルランドの至宝 ケルズの書 復元模写及び色彩と図像の考察」(荻原美佐枝)という本を見つけたので借りました。その本は荻原美佐子さんという方が、絵だけの22ページを元の絵と復元模写した絵を併記して並べたもの。荻原さんは、復元模写に際して原寸サイズにこだわり、顔料・染料もヨーロッパを回り入手しこだわったと言います。詳しくはわからないですが、本文を読む限り荻原さんは、画家でもなく、そして55歳くらいにアイルランドに行き15年をかけて完成させたと読めてきます。これはすごい執念と情熱だなと感じました。「ケルズの書」はそれだけ人の心を惹きつけるものがあるんだなと、感じたのです。私は現在60歳ですが、まだまだいろいろなことがやれるんだという勇気をこの本からもらいました。
このケルズの書について専門家の評価はというと、「ケルト 再生の思想」の著者でケルト美術の第一人者である鶴岡真弓さんによると『「修道院が代表するキリスト教信仰」と、「森や古墳が表象する異教時代」の生命感観がクロスする芸術』であり『「生きとし生けるもの」の「変容」のエネルギーを支えた構造』を持ち、『土着の神話や伝説のイメージをも、福音書のページに躍動』し、『常に「成りつつあるものBecoming」を見つめる異教時代からのケルトの美学が打ち込まれている』と表されています。(『』部分、「ケルト 再生の思想」(ちくま新書)鶴岡真弓から引用)
印刷物でしか見たことがないまだ見ぬ「ケルズの書」について、それらを見ている限り、ライオンや鳥などの動物が文字となり、そこに植物の蔓が終わりがないかのように絡み合い、渦巻文様が精緻に描かれており、「これおしなべて人の業にあらず天使の御業なり。」と聖職者ギラルドゥスが「アイルランド地誌」に書いているように、奇跡的な本なのだろうな・・・とアイルランドに想いを馳せるばかりです。
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