Kが彷徨う・・・、カフカとウェルズの映画「審判」

「審判」(1963年)

■製作年:1963年
■監督:オーソン・ウェルズ
■出演:アンソニー・パーキンス、ジャンヌ・モロー、ロミー・シュナイダー、オーソン・ウェルズ、他

1962年、オーソン・ウェルズ監督によって作られた映画『審判』は、フランツ・カフカの小説を原作とした作品で、私はこの映画を見たとき、他の映画と比べて唯一無二のパワーを持つ傑作だな、と感じました。それは、物語的に展開がおかしいと突っ込みを入れたくなるカフカの原作の展開を、ある意味忠実に、そしてウェルズの独自解釈も加えながら、彼が作り上げた独特のモノクロームの映像美と世界観が、素晴らしいなと思えるのです。観る者をカフカ的なとでもいいたくなる不安定で」不条理な世界に引き込み、60年以上前に作られたものと感じさせない時代を超えた普遍性を持つ作品と言っても、けっして過言ではないと。

ウェルズの映画『審判』は、ヨーゼフ・Kが勤務する会社の事務所、延々とタイプライターを打つ事務員の映像をはじめ、映像表現によって強く印象付けられます。陰影の強いコントラストと不自然に拡張された空間、さらには超現実的な映画美術のセットによって、カフカ的世界を映像として具現化しました。これら無機質なセットの印象は、ヨーゼフ・Kが経験どんどん、はまっていく孤立感や強調し、不気味でさえあります。この映像表現は官僚が、情報が、コンピュータが支配する近未来的なシステム社会の表現として後の世まで、影響をあたえているに違いないのです。そこに私は、オーソン・ウェルズの映画作家としてのクオリティの高さを見るのです。

カフカの小説『審判』は、官僚的なシステムに対する無力感、目に見えない社会システムの抑圧感、そこに身を置くことによる存在自体に対する不安など、多くのことを感じさせるのですが、オーソン・ウェルズは、このテーマを映像という視覚情報で、現代性も交えて、さらに強調しつつ表現したと言えます。

ヨーゼフ・Kを演じたアンソニー・パーキンスは、ヒッチコックの「サイコ」を見るまでもなく、精神が崩壊し始めているのでは?と感じさせる演技にぴったりだし、もしかしたらこれは、現実ではなく夢想の世界では?彼は夢想の住人では?と思わさせる存在感を醸し出しています。

夢想の世界と表現しましたが『審判』を、現実原則で動いていない、夢の世界のようでもあり、ヨーゼフ・Kは、あらゆることに翻弄される自我意識とも見ることができそうです。夢の中の自我意識であれば、相手の意向などプロセスを無視して気になる女性と簡単に関係を持つこともできるでしょう。私は映画を観る前にカフカの原作「審判」を読んでいたので、物語の展開に違和感を感じなかったのですが、原作を読んでいなくてこの映画をみると、なんじゃ、これ?と言いたくなるかもしれません。逆に現実と夢の境界が曖昧なこの映画を、原作を読んだからこそ、すごい表現だと感心したと言えるのでしょう。

『審判』を見て、あらためてオーソン・ウェルズの才能にびっくりし、評価をあらなたにしたのでした。

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