関心と無関心の狭間で・・・「関心領域」は問いかける
映画「関心領域」(2023年)
■製作年:2023年
■監督:ジョナサン・グレイザー
■出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒューラー、他
映画「関心領域」は、考えさせられ、気づきの多い作品でした。2023年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞している「関心領域」は、第二次大戦のアウシュビッツ収容所という異常な場所で、人間の超えられない普遍的な特性とでもいうようなものを描いているように感じました。というのは、タイトルにあるように、まさに、関心領域というものの反対側には、無関心領域というものが、あるからです。
この映画を見ていると井上陽水の名曲「傘がない」が頭に浮かんだ。歌は世間のニュースよりも、僕にとっては、彼女に会うことのほうが大事なのだけど、傘がない・・・と。これを世間のニュースの部分を、アウシュビッツ収容所で行われている残虐な行為に。そして、そこに隣接するドイツ人の住居の中の生活、家庭の維持を、彼女に会わなくてはいけないのだけど傘がないと、置き換えたらどうなるだろうと思ったのです。井上陽水の「傘がない」は、関心領域と無関心領域のはざまを描いた歌だったのです。
映画の舞台は、ポーランドのアウシュビッツ収容所に隣接する所長のルドルフ・ヘスの過程の様子が描かれます。一家は新しいモダンな家、メイドも数人いて、庭にはプールがあり、様々な花を植え花壇もある裕福で快適な生活を送っています。家庭の様子を描いても、収容所の様子は、あえて描いていません。ナチスがやったことを知っている観る側に想像力を駆使させるのです。つまり。収容所内部でおこなわれた残虐なことは描かずに、その隣にある家庭を描いているのです。
しかし、塀の向こうから煙が立ち、それがユダヤ人を償却していることを連想させたり、庭花壇にまく灰はもしかしたら、ユダヤ人を焼いた灰なのか?とか、夫人が奪った毛皮のコートを着てみたりとか、そうしたさりげない日常がかえって不気味に映るのです。ヘスが移動になったとき、夫人はせっかく理想の生活を手に入れた、私はついていくのは嫌だといいはる。夫人は収容所の中でおこなわれていたことを、どこまで知っていたのだろうか?
夫人の関心領域は、中でおこなわれていることより、現在の生活を楽しみ維持すること。ヘスの関心領域は収容所の効率をあげることと家庭の維持だ。自分が関心のあることには、いろいろなことが目につくも、無関心なことには目がいかない。まさにこの映画はそうした、人間の特性を描いていた。この関心、無関心はすべての人に言えることではないだろうか?
生活が多様化し、360度あらゆることに関心を持つことは、不可能だ。そしてその善悪を問うのは、とても難しい。無関心だからよくないのだ、とは言い切れないものがあります。聖人といわれるブッダやキリストだって、無関心領域は人であればあるはずだ。そんなことまで考えさせられた。
ところでこのアウシュビッツ収容所で虐殺された歴史を持つユダヤ人、過剰な自己防衛意識により、パレスチナを徹底的に追い詰めている。やられたらやり返す、憎しみの連鎖に平和は訪れない。これも関心領域の問題にかかわってくるなと。人間って、やりきれない存在ですね、っと虚無感を感じるのでした。