冷酷な国境政策が暴く、人間性の危機「人間の境界」

映画「人間の境界」(2023年)
■製作年:2023年
■監督:アグニエシュカ・ホランド
■出演:ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ、トマシュ・ブウォソク、他
アグニエシュカ・ホランド監督による「人間の境界」は、実際どうなっていたかを、知らずにいたので、見ていて、ただただ驚いた映画です。これは、現代ヨーロッパが直面する冷酷な政治的現実を映画が告発しているのだと思います。人間がいかに政治の犠牲になっているのかということを炙り出した、衝撃的な映画でした。
ベラルーシ経由でポーランド国境を越えれば安全にヨーロッパに入れるとの情報を信じた中東などの移住希望者が、この国境地帯に押し寄せた。しかし、これは、難民に揺れるEUに混乱を引き起こそうとしたベラルーシ政府の策略でベラルーシの警備隊は、意図的に不法越境を許し、彼らをポーランドへと入国させた。
しかし、ポーランドはポーランドで国境地帯に非常事態宣言を発令し、国境警備隊がポーランドに入った難民を、逆にベラルーシに側に押し戻す。多くの人々が森や沼地に立ち往生し、飢えと寒さと不安に震える。底なし沼におぼれて死んだ子供なども出る悲しい事態も・・・。難民はベラルーシからポーランドへ、ポーランドからベラルーシへと引きずりまわされる、まるで、荷物か粗大ごみのように・・・。 国境警備隊は、 難民の家族に出産間近の妊婦がいようと、容赦ない。荷物のように放り投げたらだめでしょう、ひどなといと感じます。しかし、隊員の中にも、非人間的なことを感じ命令と個人の良心の板挟みになる者もいたりする。 このようなことが2020年代の、現代に行われていたことが、見ていて信じがたく思う。
映画はこうした現実を、越境しようとするシリア人家族などの難民、難民の支援に励む活動家、国境警備隊と、おおまかに三つの視点から描いている。モノトーンで表現される映像は、それらの出来事が夜に行われることを象徴しているし、暗く視界が悪いことや寒さなども感じさせ、ドキュメンタリーを見ているようなリアルな感じを出している。住み慣れた土地を捨てるということは、言葉、生活、仕事、教育などあらゆることを考えると、すごく勇気がいることだと思います。なんとか現状を脱出したいと、移住を決意したものの、待っていた現実はそうでなかった。
こうした様々な視点が、観る者に深く投げかけてくる。まずなんといっても日本は平和だ、ありがたいと思う。もし自分がこのような現実に巻き込まれたら、想像するたけでゾッとする。私自身は、年齢的にも体力的にもきっと過酷な状況にもたないだろう。
映画『人間の境界』は、国家の狭間で、国家とは?国境とは?そして人間性とは?という深い部分までも問いかけてくることを描いた問題作です。( 2023年・第80回ベネチア国際映画祭・審査員特別賞受賞作品)