進化する意識が自滅を誘う「スキャナーズ」

映画「スキャナーズ」(1981年)

■監督:デヴィッド・クローネンバーグ
■出演:スティーヴン・ラック、ジェニファー・オニール、マイケル・アイアンサイド、他

デヴィッド・クローネンバーグ監督の1981年作「スキャナーズ」は、テレパシー能力持つ者がその力を使って遠隔で、人間の頭を爆発させてしまう映画として、公開時に話題になりました。当時、学生でそれを見た私。テレパシー能力を送るものの顔、それを受ける側の苦悶の表情、そして血管が浮き上がり頭が内部から爆発してしまうシーンは、その表現にCGなき時代、インパクトを受けたと同時に、そんなことありえるんかい!と突っ込みをいれたくなる印象だったのを、なんとなく記憶しています。

物語は、このような人を操れるほどのテレパシー能力を持つ「スキャナー」たちが暗躍するSFホラー映画だが、その展開に安易な部分も見て取れる。たとえば、スキャナーの力が国家レベルの戦略兵器になるほど危険だとされながらも、その扱いがとても雑だったり、セキュリティがゆるかったりする。主人公キャメロンは、自分の能力をよくわからずコントロールできないまま浮浪者同様の扱いだったのが、急にいい人になり、その能力を理解し、悪用しようとするスキャナーに立ち向かう別人みたいになり、驚くべき力を発するようになる。その展開がどこか唐突な感じがしないでもない。しかし、そうした要素は多めに見るとして、この「スキャナーズ」は別の側面でとても先鋭的な感じがするのだ。

現在、生成AIがテキストや画像、果ては動画まで作成し、AIによるものなのか、そうでないのか見分けがつかなくなってきている。さらに緻密な心理分析によるアルゴリズムが組まれ、レコメンド機能により、人の行動が予測され、誘導される。もっと言えばコンピュータと脳の融合ということや、医療の暴走ということも視野に入ってくる。

もし、もっと具体的に他人の脳に干渉することができるとしたら?それは莫大な富を生むことになるだろう。そしてそれは目に見えないものの、その能力は強力な暴力でもある。テクノロジーが人間の深層心理にアクセスし、暴走していく構図は、『ビデオドローム』にも見ることができる。人間のテレパシー能力が電話線を介してコンピュータにアクセスするなんてことが、40年以上前に描かれていたなんて!たとえその描写が、古い作品なので陳腐に見えたとしても、現代のネットワーク社会を予言しているかのような表現といえないか?

クローネンバーグの代表作とされる映画は、進化するテクノロジーと肉体、情報と欲望が、交差する点にあるように思える。そして最終的には、己の肉体を破壊させるしかない、自我を崩壊させるのだ。意識というものは目には見えないものだが、個々の人生において多大な影響を与える。意識そのものが人生と言えるのかもしれない。クローネンバーグは、通常は目には見えないもの、それは意識であったり、体の内側にある内臓であったりを、独特、かつ、えげつない表現で可視化しあぶり出したのかもしれない・・・。

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