死んだらどうなるのか?チベット死者の書は語る

『チベット死者の書』に関する2冊の本

「チベット死者の書」と呼ばれるものをはじめて知ったのは、1993年にNHKスペシャルで放送された時でした。<死者の書>という響きに惹かれたのを覚えています。今でもその番組があったことを覚えているのですから相当なインパクトがあったのだと思います。私自身、ユング心理学に興味を持っていたので、マンダラというキーワードでチベットという存在が気になっていたのだと思います。

死んだら一体どうなるのか?この永遠の謎に対し、それを表したのが、チベットの死者の書。ただ、当時、興味を持ったのですが、その本を読んでみることもなく、漠然と番組を見ていただけで、やがて時間が経つにつれ記憶はだんだんと忘却の彼方へと薄れていきました。

しかし、このキーワードが再び浮かんで来たのは2017年にエジプトに行ったとき再び浮上しました。エジプトにも「死者の書」と呼ばれるものがあり、一体、我々は死んだらどうなるのか?その最大の謎を記載したものがエジプトにもあるわけです。

エジプトとチベット、いずれも精神世界に深い影響を与えた場所。そしてそこは、日本からはけっして近いとは言えない遠い場所・・・。

この「チベット死者の書」は、もとはチベット密教の祖パドマサンヴァが9世紀に表したもであり、弟子がそれをチベットの地に埋蔵、それが17世紀に発見されたテルマ(埋蔵経)のひとつであり、「バルド・トドゥル」と呼ばれるものをさしています。それを、1930年代にアメリカのエバンツ・ヴェンツという方が翻訳し、「死者の書」という呼び方が西洋に広く知られるようになったものと言います。

しかしこの「バルド・トドゥル」の教えの源流は、 チベットで修行した人類学者でチベット・ブームのきっかけをつくった中沢新一氏の著書「三万年の死の教え」によると、 仏教以前のシャーマニズム的な要素が残るチベットの土着の宗教であるボン教に源流があり、「ゾクチェン」という教えがある。

さらには古層にいくと「原=ゾクチェン」というものがあり、中沢氏のその著書によると「原=ゾクチェン」はオーストラリアのアボリジニの宗教観ともつながるものがあるとし、「少なく見積もっても三万年をくだらない厚みをもつ、精神的地層から生まれ出てきたもの」ではないかと投げかけています。

「バルド・トドゥル」によると、人は死ぬとそれで終わりというのではなく、バルド(中間とか途中という意味がある)という状態に入っていく。死という状態の中において人は耳の働きは最後まで残っており、そこで僧侶は死者に対し「バルド・トドゥル」を読んで聞かせ、死後の道案内をする。

《裸の状態にある心の本性を見て、そこに出現する静寂と憤怒の神々を通して、自らによって解脱する。》

「バルド・トドゥル」とは、「バルトにおいて耳で聞くことによって解脱する書物」という意味。

この本をきっかけに、DVDにもなっているNHKが放送した伝説の番組「チベット死者の書」を見直したのですが、緒形拳のナレーションがいいんです。絶妙な味わいを出しています。さすが名優でした。

原典訳 チベットの死者の書 (ちくま学芸文庫) NHKスペシャル チベット死者の書 [DVD] チベット死者の書―仏典に秘められた死と転生 (NHKスペシャル)

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