チベット映画は、生きていくという根源的原理を問うものだった

映画「羊飼いと風船」(2019年)

■製作年:2019年
■監督:ペマ・ツェテン
■出演:ソワム・ナンモ、ジンパ、他

チベット映画で世界的な評価も高く東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した「羊飼いと風船」。見渡す限りが草原。羊の放牧で暮らす家族。人工物がほとんどないこの空間は、長く変わることない暮らしの歴史を重ねてきたんだろうなと想像させてくれるには充分な風景。

そこに中国の近代化と一人っ子政策の波が押し寄せ、家族の生活にも変化が余儀なく迫ってくるという話です。冒頭、子供が避妊具を膨らませ風船と勘違いして遊んでいる。それを見た親が慌てて取り上げる。

この映画では母として現実の波で苦しむ1人の女性が主人公。伝統的な信仰の世界と変化していく社会の狭間で揺れ動く葛藤が、目を見張るような大自然の風景の前には人の悩みなどちっぽけだという感傷を吹き飛ばすような現実感があります。

家族の祖父が死に、息子は直ぐにいつどこに転生するのかを僧に聞きに行きます。輪廻転生が普通に信じられているのがチベットの文化。判断は見るものに委ねられるが、そうした信仰の基盤の揺らぎさえ生じさせてくる生きていくことの問題・・・。

人がほとんどいないような場所でも、人として生活を成り立たせるための様々な苦悩が存在する。それは時に自身の身を切るような深く切ないもの。人が人である限り、そこに人がいれば、悩みや苦悩が存在するのだ。それでも人生は続く・・・。

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