根源に潜む暴力とは?「ヒストリー・オブ・バイオレンス」

映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005年)
■監督:デヴィッド・クローネンバーグ
■出演:ヴィゴ・モーテンセン、マリア・ベロ、エド・ハリス、ウィリアム・ハート他
デヴィッド・クローネンバーグの映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は、彼のそれまでの表現を変えた転機となった作品とも言われています。リアリズムで抑制された演出で、身体が変化するような異次元感覚のホラー要素はありません。じわっと響いてくるドラマになっています。
物語は、アメリカの片田舎で飲食店を営む主人公、ある日、店の閉店間際に強盗に襲われ見事に撃退したことから、街のヒーローとして報じられることになる。しかし、それがきっかけとなって、封印していたもうひとつの顔が暴かれていきます。
この映画は、暴力についてを、投げかけてくる作品です。主人公が築こうとした家庭は、彼の過去が徐々に明らかになるにつれて関係性が崩壊していきます。知らぬ存ぜぬを通す主人公も過去に恨みを持つギャングが家に押しかけてくると、男は家族を守るために一度は抜いた牙を復活させます。
あるいは息子も真面目に育てられ、不良のいじめに対しても、実るほど、頭をたれる、稲穂かなと、自分を貶めることで争うことなく、かしこい対応をするも、事件を境に、絡んできた不良に対して暴力でもって制圧してしまいます。また、夫婦間の関係もおかしくなり、事件前のまるで恋人のようなルンルンな性的関係は、事件後、階段における嫌がる奥さんに対して暴力的なファックになります。そのあとの妻の態度も、きわめて感情的に冷たくなり、でていけとばかり、裸でドアを閉めます。こうしたところがすごくクールな視点だと思いました。
その後、昔の過去にけりをつけるため、古巣のフィラデルフィアへと向かいます。暴力は排除できるものなのか?過去は封印し人生を変えられるのか?暴力の連鎖を断ち切ることができるのか?といった一朝一夕には解決できない、人間の根源的なカルマのようなものを扱っています。その意味でこの映画は、骨ぶとなテーマであると言えます。
主人公を演じたヴィゴ・モーテンセンの演技が実に渋く光っています。