ビバ、フェリーニ!作品傾向が違う救われない詐欺師の話

映画「崖」1955年

■製作年:1955年
■監督:フェデリコ・フェリーニ
■出演:ブロデリック・クロフォード、リチャード・ベイスハート、ジュリエッタ・マシーナ、他

フェデリコ・フェリーニの初期の作品である「崖」は、フェリーニ全体を見渡してもテーマがちょっと違うというか作風が違う傾向の映画です。ここでの主人公は、中年の詐欺師の男で、これまで人を騙しながら生きていた男が娘と偶然出会ったことにより、当たり前のようにやってきたことができなくなる、改心の情が沸いてきたものの、その業は深く簡単には抗えないという教訓的なメッセージを感じさせる映画です。

フェリーニの作品群の中ではそんなに評価が高くない埋没してしまうような映画ですが、一方でこの作品こそがフェリーニの傑作という人もいるようです。私の印象的では、映画自体は時代性があるものの、そこそこ面白いのですが、あまりフェリーニらしさがないという点では、どうなのかな?と思うのです。フェリーニの映画という場合、何をそこに期待するかということになるので、傾向が違う作品ゆえ、フェリーニらしさをあまり感じないということになります。

ただ注目すべきは神父に扮装して貧しい家からなけなしのお金を詐欺で巻き上げようとする時、その家族の体な不自由な少女に出会うことによって、離ればなれになってしまった娘を思い出したこと。それによりこの詐欺は失敗し、騙された家族も大きな被害は免れたものの、娘の学費を稼ぐため仲間を裏切り、一部をかすめとっていた。それがバレて挙げ句は死に追いやられてしまったこと。

つまり、体の不自由な少女により行い詐欺という自体を改心したのではなく、娘の分はちゃっかり残していたということが、ある意味でリアリティあるし教条的でない。人間とはかくも迷い大きものなのだと、作品として文学性を持ち得ていると思うのでした。

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