ビバ、フェリーニ!人工の海に漂う人間模様の虚構と幻想

映画「そして船は行く」(1983年)

■製作年:1983年
■監督:フェデリコ・フェリーニ
■出演:フレディ・ジョーンズ、バーバラ・ジェフォード、ピナ・バウシュ、他

映画の冒頭はモノクロームの古いフィルムのコマ落ちしたような映像から始まります。場所はナポリ港、大型の豪華客船が停泊しており、そこに富裕層と思われる人々が集います。目的はオペラ界の最高の歌姫とされたエドメアの遺骨が運ばれ海に散骨するというお別れの儀式をするため。
やがて映像は色彩が加わりカラーとなり、船上の人々の様子を描きます。彼らは歌姫エドメアを偲んで参加した音楽家たち、そこにジャーナリストのオルランドが観客にレポートするかのように画面から語りかけます。

例によってフェリーニの映画は、物語が展開するというよりは、エピソードの連なりで映画を見せて行く訳ですが、その一つ一つが豊穣であり、飽きさせないで見せてくれます。サスペンスでもアクション映画でもない、画面には乗船者らの悲喜こもごもが描かれるのです。そして時は第一次世界大戦前夜、サラエボでオーストリア・ハンガリー定刻の皇太子が暗殺されたとして、それを恐れたセルビア人達の難民が船に救い出され闖入してくることになります。

裕福な音楽家達乗客、船長を始めとする乗組員、レストランのコック達、ボイラー室で働く最下層の労働者、なぜか積み込まれた巨大な動物サイ、そして着の身着のままの難民達らが一つの豪華客船で一つとなり航海していきます。現れたのは難民引き渡しを要求する不気味なオーストリア・ハンガリー帝国の軍艦。

これらは全てスタジオで撮影されたと言います。なので海は人口のビニールの海。最後の場面で一瞬、その撮影の様子を見せることになり、全ては作り物だよという提示がされ、フェリーニの意図はどこにあるのだろうか?と投げかけられます。

人工と虚構と幻想の世界。撮影所チネチッタの装飾された世界の出来事。それはまるで一篇の夢のような。どんどん引き込まれて行くフェリーニの映像魔術の世界なのでした。ちなみに、目の不自由なオーストリアの貴族の役として世界的なダンサーであるピナ・バウシュが出演しています。

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