貧しさの中で利用され身を亡ぼす乱暴者と呼ばれる男の話

映画「乱暴者」(1952年)

■製作年:1952年
■監督:ルイス・ブニュエル
■出演:ペドロ・アルメンダリス、ケティ・フラド、ロシータ・アレナス、他

ルイス・ブニュエル監督の映画「乱暴者」は、彼特有の物語が全く別の展開をしたり、キャラクターが変貌する、意味不明な映像演出もなく正統派といった感じの作品です。そうなるとブニュエルらしさが失われ面白くないかというと、そうではなく今から70年以上も前にもこのような映画を作ることができるんだと奇をてらわない演出にも力があるということを知らしめたと言えるでしょう。

確かに物語的には単純なところもあり先が読めてしまう部分もあるのですが、それは時代性というのを考慮する必要があるように思います。悪い奴はよく眠ると言わんばかりに、それに利用された者がバカをみる。貧しいアパートに住む住人、立ち退いて欲しいという地主、反対に立ち上がる住人、それに対抗して裏で武力行使するために腕っぷしのいい息のかかった若者を雇う・・・。そこには持つ者と持たざる者の経済の論理が流れています。

ブニュエル映画の中では「忘れられた人々」の系列に位置する作品ですね。

<プロの眼>

●屠畜所とは転倒した教会であり、動物の殺戮は汚穢と神聖の結合を瞬時のうちに成就せしめる、典礼にも似た行為である。こうした主張がもっとも陽気に、大がかりに繰り広げられるのは、いうまでもなくメキシコ時代である。

●屠畜の主題は『乱暴者』の全体を貫いている。ペドロはまるで牛や豚のように軽々と小作人たちの長を殺し、次に主人を食卓の下でゴツンゴツンと叩き殺すと、最後に警官たちによつて射殺される。彼が主人の妻に誘惑され、情交をとげる場面では、カメラは鉄板のうえに無造作に置かれた肉塊が、燃え盛る炎のおかげで肉汁を垂らし、焼け縮んでゆく光景をいつまでもとらえ続ける。

※上記、「ルイス・ブニュエル」四方田犬彦・著(作品社)より引用

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