怒りが生み出すおぞましい心の怪物性「ザ・ブルード」

映画「ザ・ブルード/怒りのメタファ」(1979年)

■監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
■出演:オリヴァー・リード、サマンサ・エッガー、他

デイヴィッド・クローネンバーグの初期の映画「ザ・ブルード 怒りのメタファ」は、その後の頭部爆破映画の「スキャナーズ」、精神的人体変容の「ビデオドローム」、蠅と人間が合体する「ザ・フライ」へと繋がっていく作品で、まさにボディ・ホラーと言えるもの。おぞましさで言えば、この映画が一番後味が悪い。

映画に出てくるサイコプラズミクスという精神療法は、患者が抱えている潜在的な怒りやトラウマを表に出してやるという、この映画独自の設定なのだが、人がコントロールするのが難しい無意識の領域におけるどろどろとしたものにアクセスし、それを目に見える形で表にだしていく方法が恐怖なのだ。

家庭内の母親やパートナーに対する関係性で、精神を崩壊させた女性が、その治療法で異形の子どものようなものを産み落とす。それは彼女の内に秘めた怒りを具現化したそのもので、この子どものような存在が彼女の怒りに反応して殺人を犯すという話なんだけども、そんなことあるのか?と思いながらも気味が悪いというか、おぞましさを感じてしまう。

人間誰しもが、心の中で怒りを感じ、その怒りのエネルギーを心の中で「あんな奴、死ねばいい」と思った経験あるだろう。クローネンバーグはそうした負の感情を見逃さず、子宮外で産み落とすという身の毛もよだつ方法で可視化する。

50年近く前の映画だから、まだ映像表現も今の時代と比べて見劣りがする部分があるので、救われる部分があるも、見終わった後は、口の中がざらつくような後味の悪さが引きずる。映画は、怒りで襲われた少女の肉体にも変化の予兆をみせるため、この負の連鎖は続くのだということを示し救いのなさを感じるからだ。こんな作品を作り続けるのはクローネンバーグだけ、取りつかれた映像作家と言える唯一無二な存在なのである。

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