なかったこのにしたかった政治の季節「大理石の男」

映画「大理石の男」(1977年)

■監督:アンジェイ・ワイダ
■出演:クリスティナ・ヤンダ、イエジー・ラジヴィオヴィッチ

映画『大理石の男』は、アンジェイ・ワイダ監督によるポーランドの社会主義体制の批判を内包した政治的映画として高く評価されている作品。本作は、プロパガンダの虚構性を暴き、強いメッセージを持つ作品です。

1950年代のポーランドでは、社会主義体制を支える「労働英雄」像が宣伝され、国民の模範として祭り上げられたことに視点を当て、それが政府によるプロパガンダの一部にすぎなかったことを、暗に映画は指摘しています。 労働英雄として祭り上げられ、大理石の石像まで作られた主人公は、次第に政府の都合によって抹消された人物。

このことを真正面から表現しないまでも映画制作を勉強している勝気な女性が、卒業制作にこの題材を選び、作られた大理石の男の行方を取材していくうちに、そのような事実が浮かび上がってくる、あるいは、想像できる構成になっています。この勝気な女性が、卒業制作というから経験値が少ないにもかかわらず、あまりに堂々としてタバコをプカプカ、それがとても印象的です。

私はポーランドの昔も現在も、その政治、社会事情についてわからないことが、多いのですが、アンジェイ・ワイダがこの映画が公開されるときに来日したシンポジウムで「ポーランドのスターリン時代は忘れられた時代で、学校でも、新聞でも、映画でも語られず、この映画は忘れられた時代を語った最初の映画になった。この映画に登場する若い女性監督にとって、この時代は考古学を発掘するような遠い時代でしかない」(キネマ旬報1980年8月下旬号)と語っています。

ナチス・ドイツとソ連に挟まれ、政治と歴史に翻弄されたポーランドというのは、かろうじて私でも知っていることを、まるで推理小説かドキュメンタリーでも見ているようなタッチで構成してみせることにアンジェイ・ワイダの作家性というのを強く感じさせる映画で、80年代の「連帯」につながる映画として評価されているようですね。

この「大理石の男」はポーランドで大ヒットしたにもかかわらず、その内容から政府により2年間の海外上映禁止とされるが、当局に無断で1978年のカンヌ国際映画祭に出品され、国際批評家連盟賞を受賞している。政治は、自らにとって都合が悪いことには、常に口を封じたがるということですね・・・。

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