ビバ、フェリーニ!映像詩人の極みだ「ローマ」

映画「フェリーニのローマ」(1972年)

■製作年:1972年
■監督:フェデリコ・フェリーニ
■主演:ピーター・ゴンザレス、フィオナ・フローレンス、ピア・デ・ドーゼス、他

フェデリコ・フェリーニ監督の映画「フェリーニのローマ」は、その前作「フェリーニの道化師」の手法を延長させたような作り、つまり、どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのか、その境界が曖昧な自由闊達な構造を持った、およそストーリーと言えるものはない奇妙な作品です。しかし、その奇妙さは、さらによくなっていて奇跡のような映画と言えます。

若い頃、この映画を吹き替えのテレビ放送で見たことがあり、有名な映画なんだけど、そのヘンテコさになんだこの映画?って感じた記憶があります。しかし、放送のため編集され、人物らの自由な会話は吹き替えられ、起承転結のストーリーを期待していた若き私にはこの「フェリーニのローマ」の魅力を感じることは難しかったのであります。

しかし今回この「フェリーニのローマ」を見て、印象は全く変わり、ある種の映画芸術の極みにまでいった凄い作品だと思えてなりませんでした。フェリーニの映像詩人としての才能は誰にも容易に近づける位置にあるとは言えない、独特の高みにあると感じました。名人芸であり、天才であり、稀有な芸術家、大傑作であると。

書いているように、この映画にはストーリーなどありません。ローマの過去、現在が虚実ない混ぜになり、フェリーニの記憶がそこに投影され、デフォルメされ、戯画化していき、ローマという都市がエッセイや詩のように語られていくのです。どこまでが嘘でどこまでがほんとかわからない迷宮のような構成。正直、カメラで撮るという行為であるゆえ、それはほとんど「本番OK?」「OK」「用意スタート!」といった一連の撮影のための予定調和の段取りがあったに違いないのですが、仕上がった映像はそうしたことを全く感じさせない、まるで日常を覗き見したような感覚で迫ってくるのです。

これはあらためて見てみて、凄いなと思いました。

フェリーニのクールなカメラ視線というのがあります。その視線の辛辣さは、カトリックの神父らのファッションショーに表れています。その映像は、今見ても驚きの感覚が沸き上がります。揶揄っているのでしょうが、ここまで迫真性を持って描くことができるできるでしょうか?50年前の映画なのに。

同様に地下鉄の工事を撮影した場面でも、それは言えていて迫り来るリアリティ感と、その裏にある皮肉めいたもの。2000年封印されていた遺跡にあたり、掘り進めて外気にあたり、壁画が色褪せていくシーンにも見てとれるのです。地下には遺跡があり工事が100年続いている、そして、掘ったと思ったらその先に遺跡があった。しかし、瞬く間に色褪せていく壁画。まさにクールな視線だと思います。

フェリーニはこの「フェリーニのローマ」において、傑出した詩人、映像詩人の域に達している。そう思ったのでした。

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