老いと美少年、美と疫病と芸術のシンホニー
映画「ベニスに死す」(1971年)
■製作年:1971年
■監督:ルキノ・ヴィスコンティ
■出演:ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン、シルヴァーナ・マンガーノ
ビスコンティの映画「ベニスに死す」がこんなにも素晴らしい作品とは知りませんでした。トーマス・マンの原作のこの有名な映画、40年前、私は20代に名画座と言われる映画館で見たことがあります。
しかし、その時は美少年に憧れ薄化粧をした中年男性が浜辺で死んでいくこの映画を見て、なんだこりゃ?こんな変態おじさんの映画が名作?おまけにほとんどストーリーらしきものはない退屈極まりない映画と思ったものでした。
しかし、この歳になり再度「ベニスに死す」を見て見たら、なんと豊穣なそして切ない映画なんだろう、こんな映画は見たことがない、間違いなく映画史、文化芸術史に残る名画と感じたのです。びっくりしました。
若い頃に見た評価と真逆の印象。
元から心臓も弱い主人公の音楽家である主人公のアッシンバッハは、ベニスに滞在時この世のものとは思えない美少年を見かけ、虜になってしまいます。同性愛的な要素の強い映画ですが、主人公のアッシンバッハは結婚し子供もいて元来のその傾向ではない。
むしろ芸術的観念としての極上の美を、少年に向けています。彼はその少年に恋い焦がれますが、ただ遠目で見ているだけ。
ベニスの街にはコレラが蔓延し人が亡くなっていく。この疫病が流行するという状況は、現在のコロナと相通じるところがあります。街は観光で成り立っているため地元の人たちは、疫病の流行をひた隠しにします。
主人公は老いを隠すため髪を染め、白塗りの化粧を施します。この行為がわからなかったのですが、若作りにと散髪屋によるものであり、文化としてそうしたものがあるのでしょう。
コレラに蝕まれヨロヨロ歩きで、ひたすら美少年の後を追いかける主人公。浜辺に逆行で立つ美しい少年の姿に見惚れながらアッシンバッハは、死を迎えます。
セリフも極端に少なく、劇的な展開もない。染み入るような画面を見ていくだけ。しかしビスコンティが創造したこの映像が実に巧みに様々な微細なことを表現しており、味わいのある感動を得たのです。
若い頃には絶対にわからない感性を持った映画だなと、しかし、歳を取り様々な経験を重ねた今となれば、なんと味わい深い映画だろうとしみじみ思える「ベニスに死す」でした。
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