孤独の中に美を追い求めた悲劇の国王の物語
映画「ルードウィッヒ 神々の黄昏」(1972年)
■製作年:1972年
■監督:ルキノ・ヴィスコンティ
■出演:ヘルムート・バーガー、ロミー・シュナイダー、トレヴァー・ハワード、他
ルキノ・ビスコンティ監督の代表作である。19世紀後半ドイツのバイエルン王国の国王として18歳で即位したルードウィッヒ2世、その人生を綴った4時間近くある重厚な演出による大作です。
実はこの映画について、あまりよくない思い出と反省があります。それは映画が公開された時、私は30年近く前の20歳になるか、ならないかの時。メッチャ若い時です。その頃は、ヨーロッパ映画はかったるくホラー映画を見ているほうが気晴らしになり楽しめた年齢。この映画のような、さらに美術作品でも見ているかのような重厚感ある映像と淡々と演出された作品は、正直、映画館で見ているのはとても辛かったわけです。
私の前の席に座っているお客さんも同じように感じていたのか、体を右寄せ、左寄せとしょっちゅう動かしていました。今でこそ映画館は段差になって前に人の頭が画面にかぶってしまい字幕が読めないというのは少ないのです、当時はそんな計らいもなく、前の席の人が動くと画面が切れてしまうことが多々ありました。
淡々と絵画のような映像が続く中、あまりに前の人が動くので、あからさまにわかるように座席を何度か蹴っ飛ばした記憶があります。今思えば、マナー違反の酷い客でした。映画が面白いのかどうなのかよくわからず展開する苛立ちと画面がさえぎられる感覚で失礼なことをしてしまったのです。よく喧嘩にならなかったなと・・・私も血気盛んだったということです。そんな反省がある映画がこの「ルードウィッヒ 神々の黄昏」なのです。
今回、30年ぶりくらいに再見し、確かにこれは映画館で見るのは辛い映画だ、でも、ゆっくりとマイペースで見ることができると、なかなかのもので、作品としてはかなり上質なものであると思ったのです。
映画は一貫してルードウィッヒを追いかけていきます。戦争や一般国民の生活などは画面には一切出てきません。さすがに国王なだけあって生活は信じられないくらい贅沢であり、私の想像を超えるものでした。その中で、純粋培養されて育てられたルードウィッヒ、芸術こそ真実と、国政に関してはほとんど関心を持ちません。
そんな個性的な王をヘルムート・バーガーは熱演しています。若く芸術に情熱を傾けようとする凛々しい王、だんだん孤立化し追い込まれて衰弱していく王、様々な側面を見事に演じています。
ルードウィッヒは、あのワーグナーを支援したことで知られ、心酔し師として仰いでいたのですが、当の親子ほども違うワーグナー自身はルードウィッヒ金づるとしてしか見ていなかった。ワーグナーのために国費を湯水のように使い芸術至上主義に溺れるパトロンとしての王とそれを利用する音楽家。そのギャップと裏切り。
即位後、その純粋さゆえに従姉のエリザベートに恋心をもてあそばれ、最終的にはゾフィーとの結婚を破断し、逆に男色に走る。しかしこれも美男子というルードウィッヒにおける芸術的な美の価値観のなせる業なのだろうと思わせるのです。
あまりにも純粋であること、立場ゆえお金の価値について無頓着であること、周囲には信頼できる人がおらず孤独であること、価値観として芸術に真実があると理想化された世界を夢見ていること・・・。追い詰められていくことから精神の破綻をきたし狂気の足が忍び寄る。彼は最後、入水自殺して自らの命を絶つ。ある意味で悲劇的な王なんだ。
ビスコンティの映画は重厚感ある絵画的な画面を展開し、この映画に重みを与えます。演出も抑制の効いたまるで舞台芸術でもみているかのような、このような映画はなかなか創れないでしょう。時代が産み落とした作品なのかもしれません。
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