思いっきり作家の世界で構築された迷宮

 『ドラコニア綺譚集』澁澤龍彦(河出文庫)

『ドラコニア』とは“航海者マゼランがパタゴネス(巨人族)を棲んでいる土地をパタゴニアと称したように、自分で勝手に龍彦の領土をドラコニアと呼んだにすぎない”とそのあとがきで書いている。つまりドラコニアとは澁澤龍彦の国といった造語、なかなか粋なもんだなと。そもそも名前に引っ掛けてもじることができるイマジネーション豊かなカッコイイ漢字が入っていることが、ペンネームかもしれませんが、いいもんですね。私の名前なんぞ凡庸なもんで、○○○ニアなんてつけようもない(笑)。

そしてもう一つのタイトル『綺譚集』、綺譚とあるので物語的な要素も入ったエッセイとなっています。いつものごとく博学的な知識をベースに、それこそ澁澤龍彦の筆は赴くままと形容できるほどに自在に移動しています。ここで、筆の赴くままと書いたのは、テーマを追いながらも澁澤の興味や思考が途中で脱線し、そしてまた本題に戻るといった体裁となっており、まるでリアルタイムでそれが書かれているような感覚を受けるからであります。

しかし、実際は計算しつされて書かれているんでしょうから、これはもはや達人の域という印象です。そしてその文章は時に幻想的な物語へと変貌していく部分など初期の手帖シリーズなどと比べると円熟の極みに達しているとも。

書かれているテーマにおいても、西洋のものばかりではなく東洋のものもけっこうあり、年をとってくるといただく食事も洋食から和食が良くなってくるように、やっぱり自分が生まれた土地や風土に回帰してゆくのかなと、そんな印象を受けた本でした。

◆澁澤語録◆

想像力の世界では、主語と直接補語とは、つねにその役割を交換し売るものだということを肝に銘じておく必要があります。だから斬られたものは斬ったものにひとしいのです。

ひとたび人間に生まれ変わってしまえば、前世の記憶は完全に失われる。その失われた記憶をふたたびとりもどさせるのは夢であるが、夢はあくまで夢であって、夢のなかの可能事を覚醒時の日常世界まで延長させることはできない。夢のなかで奇蹟的に復活した前世は、夢が消えるとともにあえなく消えてしまうのだ。 

※『ドラコニア綺譚集』澁澤龍彦から引用 

ドラコニア綺譚集 澁澤龍彦コレクション (河出文庫)

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