誰のせいでもない

映画「誰のせいでもない」(2015年)

■製作年:2015年
■監督:ヴィム・ヴェンダース
■出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール、他

もしあの時×××がなかったら、という想いは誰でも持ち得る感覚だと思います。人生は後悔の連続である、なんて見方もできなくはない。このヴィム・ヴェンダース監督の「誰のせいでもない」は、そんな想いを少年の事故死という出来事を持ってきて、その複雑な感情を、細かく丁寧に描いていきます。

偶然か必然か、主人公を苦しめることになる事故は、ずっと心の奥底にあり、その想いは癒されることがない。妻とも別れ、自殺未遂。ただそれもどこまでの覚悟でそれを選んだのかは、連れ添ってきた元妻がズバリと見抜いている。

作家として成功した主人公は事故を自分の肥やしにすることができたのだろうか?事故後と事故前では作品のできが違うと出版関係者は発言していた。一方、息子を失った母は男を攻めるでなく、しかし、その気持ちを消化することができず悶々と生活をしている。その母もあの時、私が本を夢中になって読んでいなければと独白する。

このテーマはほんとに重いテーマである。いつ何時自分の身に降りかかる問題でもあるからだ。運命のいたずらは誰にでも起こる。死生観にも関係してくるでしょう。映画は仏教法話のような感じがしなくでもない。そしてそこには自己成長の道も見えてくるのだから。

ヴィム・ヴェンダースの演出は冴えわたり、細かい感情の描写を独特のカメラワークで丁寧に描いていきます。人の機微をここまで描ける映画監督はそうはいないだろう、と思わされるに十分な作品。超一流の演出力を持つヴェンダースなので、このような小品ではなく、スケールの大きな大作を演出したら、一体どうなるのだろうと私は期待するのですが、なかなかそうはならないというのが現実なんでしょうか?

ヴィム・ヴェンダースはまるで小説家のような素晴らしい映画監督だと認識するに十分な映画でした。

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