危機管理と国防意識、イスラエルから日本は何を感じるのか?
『イスラエル ユダヤパワーの源泉』三井奈美(新潮新書)
イスラエルは、日本によって、今最も注目すべき国のひとつであると私は考えています。そのイスラエルを理解するために、三井美奈氏の「イスラエル ユダヤパワーの源泉」(新潮新書)を読みました。筆者は特派員として3年間イスラエルに駐在していたといいます。
イスラエルというと、正直あまりいいイメージがないのが、多くの日本人のイメージするところ。それはパレスチナ問題を抱え、過激な部分がメインに報道されるし、アラブ諸国からの石油に頼る日本にとってアラブと敵対するイスラエルの情報はほとんど入ってこないから。
そうは言いながらもイスラエルの行動はいろいろな意味で問題を孕んでいるのは周知のとおり。筆者の三井氏も辛口の論調です。
私自身としては政治的、歴史的ないきさつにコメントをするのは、中東情勢について、よくは理解していないので難しいけれど、2017年12月にイスラエルに初めて行って感じたことは、この本にも書いてあるのですが「自分たちの国は、自分たちで守るしかない」という国民意識、これはほんの短い滞在でも強く感じたことでした。
四国程度の大きさで、「ハリネズミのように身構えながら」建国以来、4度の中東戦争、エジプトとの消耗戦争、2度のレバノン紛争とパレスチナ紛争を切り抜けてきたというその歴史。
そこは紛れもなくユダヤ人の苦難の歴史が背景にあることは間違いないわけです。
2000年前にローマに国を滅ぼされ、流浪の民となり、差別、迫害、虐待にさらされ、ホロコーストで600万人ものユダヤ人が虐殺された、歴史を鑑みれば、イギリスの二枚舌外交がきっかけで自分たちの土地を得るチャンスを得た彼らにとってみれば、それは必死で守るに違いないのだと思います。しかし、それが同時にパレスチナという問題を生み出すことにもなる・・・。
イスラエルは大方の予想をくつがえし、中東最強の軍事国家になり、奇跡的な経済成長を実現し、先進国の生活水準を維持している。そのパワーには驚嘆すると三井氏も書いているし、現地に行った私も大きな驚きだったのです。
そしてそのイスラエルのパワーを支えているのが世界中に広がる1300万人のユダヤ人ネットワーク、特にアメリカです。アメリカのユダヤ系社会が豊富な資金(寄付金)をイスラエルに提供し、イスラエルは軍事力を強化していっている。ユダヤ系社会、ユダヤ・ロビーを無視しては歴代のアメリカ大統領の存続はあり得ない。
イスラエル外のユダヤ人にとってみれば、いつなんどき反ユダヤの運動が起こりホロコーストのようなことが起こり得るかもしれない、ユダヤ人にとってみれば虐待虐殺の経験を繰り返しているわけだから。イスラエルは最後の砦、そう思っているから、皆、資金援助しているという人の発言が本書にはありました。
軍事といえばドローンを開発したのはイスラエル、イスラエルには徴兵制があるのですが、男女というのが珍しい。女性兵士が銃を持っている姿を街で私も見かけましたし、国を守るという意識が徹底していると感じざる得ません。
イスラエルを支援するアメリカで活躍するユダヤ系の人たちがすさまじい。グリーンスパンFRB元議長、キッシンジャー元国務長官、投資家ジョージ・ソロス、相対性理論のアインシュタイン、指揮者のバースタイン、女優のスカーレット・ヨハンソン、映画監督のスピルバーグにウディ・アレン、ファッションのカルバン・クライン・・・・、ジーンズのリーバイスや映画会社のワーナー・ブラザーズの創業者、このFacebookの創業者もユダヤ系。
イスラエルは敵対するアラブ諸国に囲まれ、アメリカを中心とするユダヤ系社会から守られている国・・・。
ところで、そのイスラエルという国はすごい、イスラエルを見ると日本が見えてくるとは、私の周りの人から聞いていたのですが、実際、そのような話を聞いても、行ってみるまでピンと来ていませんでした。そんな、遥か向こうの中東の国イスラエルを通してどうして日本が見えてくるの?実は心の底で思っていたのも事実です。
しかし、実際にイスラエルに行ってみると、そのように思っていたことは、すぐに覆させられました。短い時間でありながらも、そうしたことが、だんだんとわかってくるのでした。だんだんとというのは違うかもしれません。一気に、というのが正しい感覚なのでしょう。なぜならイスラエルで見るそこかしこが、価値観を大きく変えてしまうくらい衝撃的でしたから・・・。
こればかりはイスラエルに行ってみないとわからない。百聞は一見にしかず。行く前と行った後の、イメージの落差が激しいのがイスラエルという国。
そして、イスラエルという国で日本を強く考えさせられてしまうのでした。高齢化社会に突入し、間違いなく弱体化に向かっている日本、どうなの?日本、このままでいいのだろうか?日本と。
現代史のど真ん中に位置するイスラエル、世界中に影響を与えた新約・旧約聖書の世界が残るイスラエル、大きな矛盾を抱え込む極端なイスラエルは、良くも悪くも私たち日本に大きな示唆を与えるに違いない国なのです。これは、実感です。
以下、『イスラエル ユダヤパワーの源泉』より、引用
「日本の外交・安保は日米同盟を基盤とする。だが、最重要パートナーと頼む米国は、日本が見ていない中東を見て、矛盾に満ちた現実にどっぷりつかっている。日本はそれに目を向けず、自分が見たいものしか見ていない。米国からどんどん取り残されるばかりか、国益は大きく損なわれるだろう。」
「イスラエルの厳しい危機管理は、揶揄の対象となってきた。しかし、今やそれが世界標準になりつつある。世界中が「ハリネズミ」に近づいているらしい。」
イスラエル―ユダヤパワーの源泉 (新潮新書)