違和感、掛け違い、ズラシの構造のカラックスの新作映画「アネット」

映画「アネット」(2021年)

■製作年:2021年
■監督:レオス・カラックス
■出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、他

レオス・カラックス監督の新作「アネット」は、奇妙な空気感が流れている映像作家性を感じさせるカラックスらしい映画と言えます。

物語の進行は歌を唄いながら進むのでミュージカルと言えそうですが、いわゆるミュージカルか?というとそうでもないような感じで。タイトルにもなっている娘のアネットが、人間が演じるでなく木製の人形で、ええっ??主人公は破滅型のブラックジョークを飛ばすコメディアンと売れっ子オペラ歌手、この二人は愛し合い結婚となるのですが、その幸せな風景がどんどん壊れていく様を映し出していきます。

やがて酒に溺れやりたい放題の男は意識的なのか無意識なのか、妻を嵐の洋上で無謀なダンスを踊り海に放り出してしまい殺害、続く、その彼女に想いを馳せていた指揮者の友達も溺死させてしまう。この主人公の男には善悪の判断がついているのか、いないのか。身勝手な輩に成り下がってしまう。それをミュージカル仕立てでやるわけですが、従来の夢や幸せを音楽に乗せていくそれとは全く違うテイストの作品となっているわけなのです。

違和感、掛け違い、ズラシの構造。

そもそも操り人形化したアネットに母が愛情を注ぐのも違和感があるし、天使の歌として見世物化されてしまうアネットは掛け違いが起こっているし、亡霊となって夜な夜な現れる殺された妻はホラー映画なのか?とズラシの構造がある。

落ちていく男を演じたアダム・ドライバーは凄まじいまでの怪演を見せ、亡霊にまでなるマリオン・コティヤールもイメージを破るような演技を見せた。俳優に思いきった演技をさせてしまうのはカラックス監督の力量と彼の作品なら、という信頼なんだろうなと思ったのです。カラックス、恐るべしと感じた映画でした。

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