映像が、イコール音楽であり、イコール気分であり、イコール詩である「汚れた血」

映画「汚れた血」(1986年)
■製作年:1986年
■監督:レオス・カラックス
■出演:ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ、ミシェル・ピッコリ
煌く才能を見せつけるレオス・カラックス監督、デビュー2作目の「汚れた血」。この映画の前後作とともにアレックス3部作と呼ばれています。そのアレックスを演じるドニ・ラヴァンがとにかく強烈な個性を放っています。こんな凄い俳優はめったにいないんじゃないかと。存在するということそのものが、画面から彼の心象を語っているかのよう。
この「汚れた血」は物語は、やすっぽいB級映画のよう。愛がないセックスで感染するという伝染病STBOなるものがパリにまん延し、それに対するワクチンが開発され、製薬会社からそれを盗み出し、一儲けしようはかる。それにはアレックスなる手先が器用な青年が必要。同時に、ワクチンに目をつけたアメリカ女なるものが対抗する・・・。荒唐無稽な話な感じがするも、そう感じさせないのは、画面からはち切れそうな熱情のようなものをあふれさせるレオス・カラックス監督による演出だ。
映像もゴダールの再来と言われたように、独特のタッチが感性を刺激する。特にデヴィッド・ボウイの曲「モダン・ラヴ」にのってアレックスが、うまくいかない恋心を抱えながら、街を疾走するシーンなんかは、びっくりさせられる。シビレる映像とは、まさにこのような映像をさすのだと思いました。そのセンスはどこから生まれてくるのだろう?ただものではないということだけわかります。
さらに、飛行機からパラシュートで飛び降りるスカイダイビングの映像も、単にその映像を撮るだけではなく、そこにアレックスとジュリエット・ピノシュが演じる気絶したアンナが、大空で二人っきりになるなんて、想像もつきません。私は映画を観ていて、アレックスが恋心を抱くアンナが、年上の男に気持ちが向かっているのを見ていて、映像と歌は全く関係ないのですが。甲斐バンドの「安奈」の歌が聞こえてきました。心の中で歌が聞こえてきたなんて、こんなこと初めてのことです。
カラックス監督の映像は、イコール音楽であり、イコール気分であり、イコール詩なのでだと思う。台詞は台詞のようで台詞ではない、ポエムを紡いでいるのだ、いや引用の嵐なのだ、いや気分のモノローグなのだと、その枠組み自体を壊しているものの、けっして不十分ではなく映し出される映像に台詞はピッタリと気分でフィットしている。それはミシンとコウモリ傘の幸福な出会いのように…。
演技が研ぎ澄まされ、映像が研ぎ澄まされ、台詞が研ぎ澄まされ、微妙なズレを起こし、微妙な位置関係で、微妙な展開で進み、全体を構成して、激情、疾走したくなるような気分をあらわしているいるカラックスの映像の妙。この疾走する気分は映画という枠をはみ出してしまっている。それは若さから言葉にできないような、何かモヤモヤした腹から湧き上がる抑えきれない気分のようなものを如実に、見事に表現しているとも言えなくもない。おまけに鮮やかな色でもって近未来の空気感を表現するそのセンスも抜群なのだ
ところで特筆ものは若きジュリエット・ビノシュ。とにかく妖精のように可愛い。信じられないくらいの可愛さ。カメラは彼女のクローズアップを多用する。そうしたことで、見るものはアレックスの気分となってくる。ラスト、撃たれたアレックスが、 彼に振られた元彼女があきらめきれずに バイクで疾走して追いかけてきて、元彼女にアレックスは腹話術で涙を一筋ながして別れをつげて死ぬ。アレックスはアンナに別れを告げられなかったんだよな・・・。そして、それまであまり感情をみせなかったアンナが、手を広げて、まるで飛行機のように大空へ飛び立つように疾走し、突然終わるラストシーンは。忘れがたい印象を残したのでした。レオス・カラックス 、気分を描いたら最高の監督ですよね。


