人類愛がそこに流れているスポーツ映画

映画「インビクタス/負けざる者たち」(2009年)

■製作年:2009年
■監督:クリント・イーストウッド
■出演:モーガン・フリーマン、マット・デイモン、他

映画とは約2時間、提示される映像によりひとつの世界観を味わうものです。その際、映像の進行や作り方により、見終わった感想は様々な方向に誘導されていきます。かつてナチスが大衆を誘導するにあたり映像を使ったことは、よく知られた話です。演出の意図によりある方向性に感情がひっぱられていくにあたり、この映画のように人種差別を越えて博愛の精神に向かわせていく映画がどれほどの貢献をしているのだろうか、と考えるとその力は計り知れないと思います。たかが映画、されど映画、なのです。

この「インビクタス/ 負けざる者たち」はノーベル平和賞を受賞しているネルソン・マンデラを主人公とした映画で、ネルソン・マンデラは言わずと知れた南アフリカにおけるアパルトヘイトを解放し黒人として初めて大統領になった人です。

あらためてこの映画を見ているとネルソン・マンデラとはなんと偉大な人物であったのか、と思い知らされます。彼の黒人と白人の人種間における憎しみの感情を融和させる姿勢は全く素晴らしく、とても常人ではなし得ない仕事であると思いました。彼自身、活動家として30年近く投獄されていたわけで、憎しみの連鎖に乗っかることは容易であったに違いありません。しかし、憎しみの感情は何も生み出すことはない、黒人と白人との融和こそが近道であると、その堂々とした姿勢に心打たれました。

映画はマンデラ大統領の強い意志と融和の象徴としてラクビーのワールドカップの試合が重なっていきます。白人がメインに構成された南アフリカのラクビー・チーム(黒人は1人だけ) 、肝心なところで負けてしまい期待を裏切ってきたラクビー・チーム。白人は自国を応援し黒人は相手国を応援するというラクビー・チーム。しかし、かれらはマンデラ大統領の応援を受けて決勝へと進んでいきます。ワールドカップの決勝戦、試合の行方への高揚感とマンデラ大統領の強い信念と黒人・白人の国民の様子が重なり、映画的な盛り上がりが最高潮を向かえます。試合は延長となり、残り時間が僅かな時、強敵ニュージーランドから南アフリカのチームが点を奪ったときは、思わずやった!と叫んでしまいました。

スポーツを題材にした映画はこれまで何本か見たことがありますが、ここまで秀逸な作品は見たことがありません。また、その話が実話に基づいたものであるということも説得力があります。一体、ラクビーの試合を観戦する大観衆をどうやって撮ったのだろうと思わせるのも映画のマジックと言えそうです。

スポーツ、人種差別、政治といった要素が重なり、人類愛へと大団円を向かえるラストは素晴らしい映画的な感動を味わうことができます。ホルストの「惑星」に歌をつけたエンディングの曲も余韻を残します。人間の歴史はうまくいかないことも多々あるのですが、この惑星に住まう人間を信じたい気持ちになりました。

インビクタス・負けざる者たち [DVD]

Follow me!