世界の文学の中で一番有名な作品冒頭?それが「不思議の国のアリス」
「アリスは土手の上でお姉さんとすわったまま、何もすることがないので、あきあきし始めていました。一度二度、お姉さんの読んでいる本をのぞきこんだのですが、挿絵もなければ会話もないものですから「絵も会話もない本なんて何になるの」とアリスは思いました。」
これは英米文学の翻訳家、表象文化論としても、日本のトップ研究者といっても過言ではない高山宏氏の著書「アリスに驚け」(青土社)の冒頭に出てくる、氏曰く「世界の文学の中で多分一番有名な作品冒頭」とする「不思議の国のアリス」のはじまりの部分です。
「アリスの素朴な疑問が、退屈と倦怠にまみれるヴィクトリア朝社会を、<驚異>弾ける魔術の帝国へと変貌させるー。綺想に彩られた「アリス」物語の破天荒の可能性を、大胆華麗に切り拓くー。」こちらはその「アリスに驚け」の本の帯に書かれたコピー文。
この帯にあるようにこの本は驚きにあふれています。まず、高山氏の解読に驚くのですが、冒頭のこの短い文章から数ページにわたり、当時の文化状況などを解説していく知の宝庫ともいえる引き出しの多さ。たとえば、「お姉さん」と訳された本を読んでいる少女は、お姉さんなのか?妹なのか?言語ではシスターなので姉なのか妹なのかは、わからない。それを当時のイギリスの文化風習を引き合いに出して「お姉さん」でなければならない。そしてアリスはあきあきしているので、「黙読」している・・・といった具合に数ページにわたり解説していくので驚異的とも感じるのです。
これは高山氏が「優れた文学ほど、その冒頭部に一切が凝縮されているという信念」そのものであり、その筆頭格がアリスなのだというのです。
私がこの博物学的な内容において、もっとも興味が引かれた部分は、アリスはウサギを追っかけて地下に落ちていくことについて、高山氏は投下していくことに対する象徴的な解説や「不思議の国のアリス」はもともと「地下の国のアリス」であったことに加えて、ロンドンにその時、初めて地下鉄が走ったことや(テクノロジーの勝利?)、当時は下に関する関心が時代的にとてもあったことを指摘していることです。
フロイトの精神分析による無意識の発見、フレイザーの人類学による民俗の下に眠る不変の叡智、マルクスの下部構造の経済学、ユングの習合的無意識の下なる元型、ヴィクトル・ユーゴ―の「レ・ミゼラブル」、ドストエフスキーの「地価生活者の手記」、ジュール・ヴェルヌ「地底世界旅行」、さらには、地球空洞説・・・。
そうしたものが列挙されていきます。つまり「不思議の国のアリス」が描かれた時代は<下>へ興味の関心が向けられた時代で、おおかれすくなかれ作者のルイス・キャロルもその影響を受けているということが見えてくるのです。いやー、ウサギの穴に落ちていくシュチエーションだけで、当時の文化的空気感まで読み込むのかと、私自身は驚きを隠せませんでした。
「地下に降りてゆく行為の神話性、民族性(再生農耕儀礼と冥府降下物語)がテクノロジーに人々が酔い痴れる時代に無機化されていく、そのことを感じさせるいきなりの意味深長な比喩であることだけは間違いない」と高山氏は書いているのですが、私はこの文章を読んでゾゾッとしました。(※「」部分「アリスに驚け アリス狩りⅥ」高山宏著(青土社)より引用)
この地の巨人と呼んでもいい高山宏氏との出会いがあり、私は無謀にも「不思議の国のアリス」をテーマとした会議室空間で、アリスの話をして欲しいとお願いをしたのです。それなりの地位(元大妻女子大学の副学長)と実績を持っている大家なので、だめもとでおそるおそる話してみたら、なんとOKをもらい。やはり延々とアリスから見えてくる世界を語っていただいたのです。これは貴重な映像だと思います。文科系の一つの頂点のお話なのですから。
そこでアリスに関連した企画を高山宏氏のお話を重石として、朗読&音楽のコラボあり、アリスをテーマとしたマジック(手品)あり、アリスをテーマとしたヒーリングあり、スピリチュアルのアリスの視点ありと、どこにもないアリスの企画を試みました。できあがった企画を見せた高山氏は、どこにもない裏アリスと呼べるとてもいい企画と評価していただきました。
なので、51コラボが企画した祖プ時間9時間超えとなった超ド級のオンラインコンテンツ「不思議の国のアリス~叡智の迷宮(ラビリンス)へようこそ~」をできるだけ多くの方に見てもらいたいと思うのです。10月末までの締切で、素敵なアリスグッズもプレゼント中!できれはアリス・ファンの方の手に渡ってほしいのです。