「不思議の国のアリス」は、時代背景も不思議な想像力に影響している
「不思議の国のアリス」はファンタジーという領域を超えてホントに不思議な夢の話なんですが、作者のルイス・キャロルが生きた時代背景もその創造力に影響を与えているように思えます。彼の年表とその時代のキーワードを見るとそう思えて来るのです。
●彼が5歳の時にヴィクトリア女王が大英帝国を象徴する存在として即位、以後、64年間も君臨した。
●彼が6歳の時に世界最初の写真タゲレオタイプを発明し、以後、ルイス・キャロルはプロ並みの写真術を使いこなすことになる。ちなみに63歳の時にはリュミエール兄弟が映画をスクリーンに映し出し、本格的な映像の時代へと突入していく。
●顕微鏡が普及し見える世界が拡大した。写真機の光学技術の進化、普及により視覚的な世界が広がった。顕微鏡により肉眼では見えない世界を見ることができるようになった。
●時計が示す時間の地域差をなくす動きが加速化し1884年、ロンドン・グリニッチの時間を世界的な標準時間とすることが、国際子午線会議で決まった。これにより時間という概念がより強まったといえる。
●1851年ロンドンで世界最初の万国博覧会が開かれた。世界の珍しいもの、知らない文化を広く知らしめるきっかけになったといえよう。
●巨大な爬虫類の化石をディノサウルス=恐竜と命名したのもこの時代。恐竜博物館ができるなど、化石発掘や研究に歯車がかかった。先史時代の地球に別の巨大な生物がいたことにより想像力を働かせることになった。
●チャールズ・ダーウィンの「種の起源」が発刊。進化論は大きな論争を巻き起こす。
●スコットランドの宣教師ディヴィッド・リヴィングストンが暗黒大陸と呼ばれていたアフリカ大陸を横断、冒険がキーワードにかつ現実的なものとなってきた。
●ロベール・ウーダンがパリにマジックの劇場をオープンさせ、夜会服にシルクハットという正装で出演しイメージを一変させた。あるいはロンドンで壁をすり抜ける奇術「ペッパーの幽霊」が人々の度肝を抜いた。文化的な行為として不思議なことを楽しむスタイル。
●ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」が刊行。地球空洞説の考え方とともに地底世界を旅するSF本がベストセラーに。「不思議の国のアリス」の元のタイトルは「アリスの地下の国の冒険」だった。
●霊媒師ダニエル・ホームが宙を歩きスピリチュアリズムがブームに。ルイス・キャロルも興味を持ち研究グループに加わった。
●フランスの2月革命とマルクス・エンゲルスの「共産党宣言」が刊行。世の中がこれまでの仕組みから大きく変化していく兆しを見ることができる。
このような時代背景を見ていくと、現実レベルにおいて、地下世界や恐竜、そして顕微鏡の世界と未知なものへの興味とともに、マジックや心霊などの見えないものの不思議な力の存在への関心などが人々の心を捉えていたように思います。また同時に、革命やマルクス、ダーウィンなどにより既存システム、制度への疑念が起こり、創造力は、マスメディアにより情報が均一化される前であり、飛翔した時代だったように感じます。(あくまで想像ですが)そんな時代の空気感を背景に「不思議の国のアリス」は生まれたのかな?なんて想いを巡らせてみるのです。
ちなみにこのアリスの2部作は大正時代に西條八十によって早くも翻訳され、アリスの名前は和風の「あやちゃん」と変えられたそうです。その後も、芥川龍之介や菊地寛らも翻訳、さらにはあの宮沢賢治にも影響を与え「注文の多い料理店」の自らによる広告文にアリスについて言及しているとのこと。「不思議の国のアリス」はファンタジーという枠組みを遥かに超えて時代の寵児たちの心を大いに刺激したに違いないのですね。
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