魔性の女か?恋愛のドツボな地獄へ
映画「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」(1972年)
■製作年:1972年
■監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■出演:マーギット・カーステンゼン、ハンナ・シグラ、カトリン・シャーケ、他
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーは、今から40年以上前、私が学生のころ「マリアブラウンの結婚」「リリー・マルレーン」が公開されその存在を知りました。ドイツの映画監督であり、1970年代を中心にニュージャーマン・シネマの旗手としてしられています。
ファスビンダーは驚異的な創作力と多作ぶりで知られており、短い映画監督のキャリアで40以上の映画を製作。自らゲイと告白し、20代だった私に上記の2本の映画は強烈な印象を残しました。
今回公開された「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」は、1972年の作品です。男性は一切登場しない、室内のみで展開する、演劇的な要素も強い映画でした。
女性ファッションデザイナーのペトラは、結婚で失敗し夫との間に娘がいます。現在、彼女はアシスタントのマレーネを、まるで奴隷のように扱い生活している。ある日、友人のシドニーがペトラの部屋を訪れ、彼女に若い女性カーリンを紹介します。このカーリンを演じたのが「マリアブラウンの結婚」で主演したハンナ・シグラ。
ペトラは美しいカーリンに一目惚れし、モデルになったらいいと進め、やがて、彼女と一緒に生活を始めますが、カーリンは自由奔放な性格だった。彼女の気ままで理解不能で奔放なペトラは、恋愛のドツボにはまってしまい。恋しさと憎しみの間で揺れ動き、正気を失っていく・・・。その破滅していく過程は娘にも及んでいきます。この恋愛のドツボに落ちていく過程が実にうまく描かれていました。ファスビンダー監督、すごい思わせる部分。
この映画では女性同士の恋愛を描いていますが、男女関係の恋愛でも、似たようなことがあると感じました。愛おしさと憎しみの間で揺れ動く気持ちは、私も程度の差こそあれ身に覚えがあります。たとえば恋愛のもつれで、相手の女性を刺してしまう事件があります。相手が自分の意に沿わない故、苦しみ破滅へと向かっていく。しかしそれは、自身のエゴを相手に投影しているにすぎない部分も。
ペトラにとってカーリンは魔性の女だった。破滅したペトラは奴隷のように扱ったマレーにすり寄るも、彼女はクールに彼女のとこから去っていく。なかなか見ごたえのある映画でした。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督というキーワードが浮かび上がるきっかけとなりました。