スパイダー・キラー、聖地の深い闇を描いた映画

映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022年)

■製作年:2022年
■監督:アリ・アッバシ
■出演:ザーラ・アミール・エブラヒミ、メフディ・バジェスタニ、他

映画を見終えた後、モヤモヤっと救いの無さの黒い雲のようなものが重く、そして覆い被さるような気分になりました。「聖地には蜘蛛が巣を張る」は一言では言えない骨太なヘビーな映画でした。その意味では映画館でしか味わえないような秀作、純文学の小説を読み終えたような感覚が残ります。

イランで実際に起きたスパイダー・キラーと呼ばれた娼婦の連続殺人事件がテーマ。舞台はイランの聖地マシュハドで貧しゆえに娼婦として街に立つ女性を、「街の浄化」と称して次々に殺していく男性。そこに同じくイスラム系の女性ジャーナリストが切り込んで行くという話。

そこには行き過ぎた信仰はなかったのか?あるいは、それは本当に信仰のなせる出来事なのか?男性の性癖的な部分はないのか?ミソジニー(女性蔑視)はなかったのか?さらには、犯人の家族は夫の異常な行動に対してどう受け入れて行くのか?などイスラム社会の闇のような感じを受けるのですが、もっと根源的な人としての要素が詰まっているように思います。

事件が発生した当時、聖地浄化のためによくやったと犯人を支持する声もあったと言います。映画でも犯人が支持者がいるから大丈夫だと言う発言もあり、彼の妻や子供は親の行為を受け入れるため、行為を正当化していました。殺す側の理由、殺される側の、そうせざる得なかった理由が錯綜します。

この映画、なんとデンマークをはじめとするヨーロッパ各国製作による映画。監督はイラン人で海外に留学しそのままヨーロッパで映画監督となった アリ・アッバシ、主演のジャーナリストと演じた女性は母国イランで実績を残すも性的なスキャンダルでフランスに逃げないといけなくなった女優ザーラ・アミール・エブラヒミ(この作品でカンヌ国際映画祭で主演女優賞受賞)と、イラン在住の俳優コラボレーションしてイランのスキャンダルをイラン人が作ったという複雑さ。

そしてイランでは映画を作ることが許されず、ヨルダンで製作したという。当然ながらイランでは文化的な陰謀と不評であったそうだ。しかしイランを知るイラン人の映画人が映画を通して世に問いたいという入魂の作品なのでした。

Follow me!