静かな感動が・・・じわじわと映画「燃ゆる女の肖像」

映画「燃ゆる女の肖像」(2019年)

映画公開後、その評価が高かった「燃ゆる女の肖像」。同性愛を描いた作品ということで、そんなに興味が湧かず、映画館で見ることはなかったのですが、いざ見てみると、これがなかなか味わい深く心に残る作品でした。映画的な派手な展開はなく、静かに淡々と描かれているのですが、そのぶんパッションの高揚を感じさせてくれるには充分過ぎる映画。

地味な映画ではありますが、傑作と思いました。この映画の評価が高いのが、よくわかるし、出会えてよかった映画の一つとなりました。ほとんどの映画はこの歳になると余韻は残らないのですが、「燃ゆる女の肖像」は見終えた後でも、映画の余韻が静かな波のようにさざめいているのです。

同性愛を描いた作品ですが、愛しあうという観点から見れば男女の愛も変わらない。社会的な障壁の度合いは違うかもしれませんが、愛したゆえに訪れる別れと切なさの感情はあるものだ。

肖像画を描くために雇われた女と雇い主のお嬢様、立場の違う二人の女性が愛しあい、やがて別れなければならない状況が訪れ、それぞれの道を歩むことになる。画家の女性は、まるで幽霊のような白いドレスを着た愛した女性=お嬢様の幻影を何度か見るのですが、それは自分の本来の意図とは違う花嫁のドレスを着ることになる予兆だったのか?

画家は書籍の28ページに自分の自画像を描いてプレゼントする。別れた数年後、絵の展覧会でどこかの裕福な家に嫁いだのだろう、お嬢様は奥様となり子供を抱えた肖像画が飾られていた。その手元に半開きの本、そこには28という数字が。私は思わす、あっという声が出ました。子供、28、辛く苦しい闇を抱えた肖像画。

最後にお嬢さんを見たのは、と語る画家の女性。コンサート会場、桟敷席から彼女を見つける。そこからカメラは人の運命、悲しさ、情念といったものを、感じさせてくれる長回しの、映画史に残るような切ない映像。

二人が結ばれるきっかけとなった祭りの夜、お嬢様のドレスが自然発火する。燃ゆる女の肖像なのでした。

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