永遠の女性なるものよ、引きてわれらを高みへと導かん★神話と女神

「神話と女神」ジョーゼフ・キャンベル(原書房)

ジョーゼフ・キャンベルといえばアメリカの神話学の第一人者。キャンベルは、英雄譚を分析した成果が有名なのですが、この本はそのキャンベルの数々の神話学の講義において、女神について言及した複数の講義から抜粋したものをまとめたものとのこと。氏は神話における英雄の研究をする一方で女神についても注目していたといいます。

編者のサフロン・ロッシという方の序文によると「キャンベルのお気に入りのテーマは、過去2000年、男性優位の一神教の伝統が続き、女神を排除しようとしてきたことをものともしない、女神のもつ原型的かつ象徴的なパワーである変容と忍耐である。」と書かれています。占星術において春分点が横道帯の星座を約2000年の周期で移動していくことにより、地球は星座の影響を受けるという大きなスパンの見方があります。それによると現代は水瓶座の時代に入ったと言われてます。その前の時代は魚座の時代。つまりイエス・キリストが魚として象徴されることに顕著なように男性優位の一神教の時代であったと言えます。これからの2000年は水瓶座の時代、つまり、女神の時代と言えそうなのです。

かなり分厚いこの本の構成は以下のようになています。おおざっぱに言うと古代農耕文明における女神信仰の時代から、北方からインド・ヨーロッパ語族、砂漠からセム語族の流入により男神の信仰が中心になり、女神の地位が落ちていきものの、実はしぶとく形を変えて信仰されているというものであろうかと思います。目次はざっとこんな感じです。

●はじめに 偉大なる女神について
旧石器時代の女神/女性と男性の魔力:対立と協調/初期の栽培を司る女神/女神の黄金時代/女神の凋落/女神の帰還/結び
●第1章 神話と女性の神格
旧石器文化の女神/自然としての女神
●第2章 創造者としての母なる神 新石器時代と青銅器時代
石から銅へ:アナトリアと古ヨーロッパ/銅から青銅へ:クレタ島
●第3章 インド・ヨーロッパ語族の流入
鎗と言語/墳丘墓と寡婦殉死/ミケーネ
●第4章 シュメールとエジプトの女神
抽象的な領域:文明の興隆/セム語族の侵入:サルゴンとハンムラビ/エジプト/イシスとオシリスの神話
●第5章 ギリシアの女神と男神
女神の数/アルテミス/アポロン/ディオニュソス/ゼウス/アレス/アテナ
●第6章 『イーリアス』と『オデュッセイア』
女神の復活/パリスの審判/イーリアス/オデュッセイア
●第7章 変容の秘儀
過去と未来の女神/秘儀崇拝/ペルセポネの誘拐/ディオニュソスと女性神格
●第8章 アモール
ヨーロッパの冒険物語における女性性/処女マリア/宮廷風恋愛/女神のルネサンス/リフト・オフ

かなり多岐に渡って書かれてるので、少しだけ気になった部分など備忘録として部分的なものを、私なりにメモをしたものを記載します。

古代、女神は神秘で呪術の力を持っていた

キャンベルは原始、女性は生命の器であり、男性を呼び覚まし、神秘的な力を有していたとして女神信仰があったと書いています。女神は変容させる者であり、過去という種子を受け入れ、自分の肉体の魔力を使って未来の生命へと変える魔力を宿していたと。そして神秘性は呪術的な力があったというのです。

この女性原理の主な神話的な役割として、以下のようなことを列挙しています。●男性にとって精神的存在として誕生する母である。 ●それは本能で生きることから真に人間的な精神生活を送ることに目覚めさせる。 ●女性は目覚めさせる者であり、その意味で命を与える者でもある。 ●太古、幼年たちは洞窟の中でイニシエーション(通過儀礼)を経て、生みの母から万物の母の子どもへと大地の子宮(=洞窟)の中で変容し、象徴的な再生を体験した。 ●つまり、ここの少年は自分の母からではなく、超個人的な万物の母から生まれ、大人の仲間入りをするということ。 ●生殖機能を持つ腰部の神秘性や乳房の神秘性という女性の生み育てるという側面は、自然そのものの神秘性の表象、顕現であり最初の崇拝対象となった。 ●月経と月の周期が等しいことは天体の周期と地球上の生命の周期が結びついている。●出産は命そのものの尽きることのない器であり自然の力の器。

原始の女性像は裸に対して男性像はシャーマンの装束を身に付けている。それが示唆することは聖性を体現する女性に対して、男性の巫術的機能は身体的な特徴ではなく社会的役割の特徴を示しているということ。

こうした視点は、自然回帰志向、原点回帰志向、女性解放志向とも結びつき、アメリカのスターホークに代表される現代魔女(モダンウィッチ)運動にも影響を与えたことは容易に想像がつきます。これらは魔女と名乗ることにより、怪しいと排除するのではなく、女性の持つ力を目覚めさせる復権なのだろうと私は思います。

私自身振り返ると、20代の若い頃は男性と女性は全く違うもので、理解がなかなかできない関係性により、ただただ苦労するなあと感じていましたが、歳を経るにつれて、この世の中は男と女しかいない、そのバランスは陰陽の絶妙の関係性であり、どちらが優位とかいうものではない。それぞれがこの世で受けた役割があり、何をおいても支えあう関係性なのだと強く思えるようになりました。というか、私は女性の力に支えられながら、なんとか社会生活を送れていると日々感じています。その意味で女神性とは生きる力を与えてくれる根源であると思うのです。

9は女神の数字

宇宙秩序は、その中にあらゆる生命が存在する内包する子宮であることから、女性の力、女神、母なる宇宙と同一視されるといいます。天空に広がる宇宙、月、火星、水星をはじめとする7つの天体は一週間の曜日となり、惑星の運行を数学的体系に関連付けることは人類の意識においてとても重要な概念であり、世界を司る母なる女神の本質を解く鍵は数字にあるとキャンベルは書いています。

そして、「9」という数字が、女神を示す偉大な数字とキャンベルは言及しています。3×3=9、3組の3美神(アプロディテの3つの側面)を表すといいます。さらに「432」という数字も興味深いと。4+3+2=9になる。インドの聖典「プラーナ」は43万2000年をカリ・ユガの続く年数と伝え、アイスランドの「詩のエッダ」ではヴァルハラには540匹の犬がいて800人の兵士が闘い、宇宙を破壊する(540×800=43万2000)。

ベロッソスというバビロニアの神官は最初の都市キシュが出現し、ノアの箱舟のモデルになった洪水が起こるまで43万2000年と指摘した。そして聖書のアダムとイヴからノアまでの人類の祖が経た年月は1656年。それについてオッペールというアッシリア学者によると、ベロッソスの記述による大洪水以前の王朝と、大洪水以前の創世記の父祖(たちの年数には72という因数が含まれている。43万2000÷72=6000、1656÷72=23。この72という数字は春分点歳差運動が黄道帯にそって1度移動する年月のこと。

ユダヤ暦は1年を365日、23年は閏年の日数を加えて8400日=1200週。1200×72=8万6400となりこれは43万2000の0.2倍であるということ。キャンベルは何を言わんとしているのかと言うと、インド、アイスランド、バビロン、聖書に同じ数字が出てくるということなのだと(私は計算でやや混乱していますが)

さらに現代は占星術において魚座の時代から水瓶座の時代に移行したといわれていますが、そのベースとなっている春分点が横道帯を一周するのに何年かかるのか?2万5920年であり、それを60進法で割ると、2万5920年÷60=432になる。健康的な男性の安静時心拍数は1分間60程度、12時間で4万3200になる。インドでは女神に108の名があり、儀式で108通りの女神の名を呼ぶ。仏教における煩悩は108ある。108×4=432。さたに1+0+8=9。マリアの受胎告知を告げるアンジェラスの祈りの鐘は、朝3回、昼3回、夕9回鳴らされる。

これら数字について、私は理解をしているわけではないのですが、キャンベルは神話のすべての基本が律動、リズムであり、宇宙とこのリズムを調和させれば体調もよくなる(体調が乱れると拍動も乱れる)。疾病はリズムが乱れているのであり、神話のリズムは人を回復させるというのです。このキャンベルの論を飛躍させ、神話をすっかり忘れてしまった現在、コロナ禍が地球レベルで降りかかってきたというのは考え過ぎなことでしょうか?

このキャンベルの「神話と女神」には、冒頭、下記のゲーテの言葉が引用されています。

永遠の女性なるものよ、引きてわれらを高みへと導かん。 ― ゲーテ「ファウスト」

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