凡庸な悪とは?を問う壮大なスケールによる前代未聞の映画

映画「DAU. ナターシャ」 (2020年)

■製作年:2020年
■監督:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ
■出演:ナターリヤ・ベレジナヤ、ウラジミール・アジッポ、オルガ・シカバルニャ、他

映画「DAU. ナターシャ」は、情報が不確かななのでどこまでが、とは言えないのですが、これまでの映画製作という範疇を超えた、映画の宣伝では狂気的なという言葉が使われていますが、驚くような作品であることは間違いありません。

映画にまつわる情報によるとオーディション人数は39.2万人、主要キャストは400人、エキストラは1万人、衣装は4万着が用意され、12000㎡もの巨大セットを建設、その製作年数はなんと15年にも及んでいるという。これだけでも目を見張る驚くべき数字です。

映画はかつての社会主義国ソ連を再現したといいます。そして、2020年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞しているも、過激なバイオレンスとエロティックな描写のため賛否両論の嵐を巻き起こし、ソ連崩壊後の当事国ロシアでは上映禁止にされてしまったそうです。ちなみに公開は、R18+となっています。

この情報だけでも「DAU. ナターシャ」とは、一体どんな映画なんだ?と。巨大セットはソ連時代の閉鎖的な物理工学研究所が再現され、実際に200~300人の人達が参加し、本当にその場所で長い期間に渡り暮らしたというのです。

そこの生活の通貨として使用されているのはソ連時代に使われていたルーブル、新聞はソ連時代の当日のものが毎日届けられたそうです。その時代にタイムスリップすべく徹底的な再現を試み、そこにカメラが入ったという映画なのです。

さらに参加者の中には本物のノーベル賞受賞者、元ネオナチリーダーや元KGB職員などといいます。この「ナターシャ」に出てくる秘密警察も元KGBなので、取り調べの映像が生々しいのです。

実際の科学者たちも参加し、そこ住みながら自分の実験を続けたそうです。もっと言えば、参加者同士の人間関係が発展し、愛しあったり、結婚や出産まであったとか。

ここまで来たら、社会主義というなの全体主義へと向かったソ連という国を検証するための異様ともいえる壮大な実験プロジェクトであり、最早、映画という範疇を越えています。

これらは映画のパンフレットからの情報なので、そこまでやったのか正直わからないのですが、見せられる映像は普通の映画とは間違いなく異質な感じがします。

こんな実験的な空間にカメラが入り人物を描写。この映画は研究所のカフェで働くナターシャという女性をメインに切りとったもので、人間関係や諸々、妙なリアリティがそこにありました。ナターシャを演じたのは素人といいますから。プロジェクトという名の元で、ここまでさらけ出してしまうのか、という恐ろしさも感じます。

そして宣伝的にいえば狂気的ともいえる壮大な実験を撮影した映像は膨大にあり、今後テーマを変えて何本も登場してくるというこ。つまり映画は「ナターシャ」一本だけではないということ。

ところで、一体ここまでの環境を整え映画を作ることができた、その資金はどこから出てきたんだろうと、それが不思議でした。

哲学者のハンナ・アーレントが、ナチス親衛隊中佐としてホロコーストに関与したアドルフ=アイヒマンの裁判を記録した著書「エルサレムのアイヒマン」の中で記した有名な言葉「凡庸な悪」それを思い出します。とにかく、いろいろな意味でこの映画はヤバイ作品と思った次第です。

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