ハードコア女優がジャンルを超えて熱演「ラビッド」

映画「ラビッド」(1977年)
■監督:デイヴィッド・クローネンバーグ
■出演・マリリン・チェンバース、フランク・ムーア、他
この「ラビッド」はクローネンバーグ監督作品の日本初上陸作品という。それは50年近く前となる1978年のこと。その後、人頭が爆発する「スキャナーズ」やハエ男「ザ・フライ」で一気にその名が知れることになる。
この「ラビッド」、今見るといかにもB級テイストなんだけど、それは彼が一貫して通しているスタイルのようにも見える。なにもスタイリッシュな映像であることが、すごい映画監督であるとは言えないわけで、彼のような地味でキッチュな演出でも見せる世界に迫力と説得力があれば十分なのである。
主人公となる女性がバイク事故で、病院に運ばれ、皮膚を移植することになるわけだが、なにかその手術は、医者の判断で実験的なもの、確立されていない方法でされてしまう。その結果、女性のわきの下に、まるで肛門のような穴ができ、そこから陰茎状のものが伸びてきて人間の血を吸うようになってしまう。どこか変な吸血鬼になってしまう。
彼女に血を吸われた人間は、しばらくしたら同じように吸血鬼になってしまい、他の者を襲うようになり、町はパニックに陥る。原因不明の伝染病、狂犬病の変形のように人々は認識し、ある種のパンデミックになる。
そこからは、どこかコロナ騒動を思わせるような展開になる。WHOのコメントがニュースで流れる。ワクチン接種が推奨される。ワクチン通行証のようなものができて、ないと通行ができない。対策部隊は予防のため防護服のようなものを着ている。こうした映像を見ていると、数年前のコロナを想起させなくもない。しかし、吸血行為で伝染するので実はワクチンも防護服も役に立たないわけなのだか・・・。
この吸血鬼に変種した女性を演じた女優が、なかなかよかったので、調べるとマリリン・チェンバースというハードコアのポルノ女優だった。白人と黒人のHを初めて映画にした女優ということで、アグレッシブなイメージがあったのかもしれない。「ラビッド」でも捕食のためにポルノ映画館で誘惑する場面がある。おもしろいことに、私は血を吸うことしか生きていけないの的なセリフがあったり、このパンデミックが自分のせいじゃないと自ら体を捧げる場面のあり、ただのホラーではないと思うのだ。
この映画、今見ればキッチュでB級という感じは拭い去れないけど、身体変容、意識変容につながるクローネンバーグ監督のテーマの萌芽も見られるのが、面白いのだ。