「八犬伝」のゆかりの場所・伏姫籠穴
南房総市の富山(とみさん)と呼ばれる山の中腹に、江戸時代の戯作者である滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』の物語の発端となった伏姫の話のゆかりの場所があります。それが伏姫と八房(やつふさ)が、住んだと言われている伏姫籠穴(ろうけつ)です。
江戸時代のそれも、創作の物語なので、実際に住んだ場所なるものがあるというのは不思議なこと。『南総里見八犬伝』の人気にあやかり後世に作られたものなのでしょう。それはそうかもしれないが、いかにもと思えてくる場所にあるのです。意外と全国にある●●ゆかりの場所というもの、後の世の創作が多いのかもしれません。
この富山の中腹にある伏姫龍穴、行くと途中大雨や台風の影響か、ところどころに倒木も見られる。鬱蒼とした森の奥深くにある伏姫籠穴は、自然の妙でこのような岩場の窪地ができたと思われるが、その奥には、八犬伝のゆかりの地らしく「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の8つの珠がある。平素は、ほとんど人が訪れることもないだろう場所に置かれているのは、そこにある種のパワーも感じなくもない。実際、鈍感な私でも不思議な感覚になった。
伏姫のエピソードは、『南総里見八犬伝』の物語全体の基礎となる部分で、安房の国の領主である里見義実は、主君を惑わせた悪女である玉梓(たまずさ)を処刑するが、その際、玉梓は、里見家を呪ってやると言い放ちます。時は過ぎて、隣国の館山城主・安西景連(かげつら)に攻め込まれ劣勢になった里見義実は、飼っている不思議な犬、八房に、景連の首を取ってきたら、姫を嫁にやろうと戯言を言いうと、八房はなんとその首を取ってきてしまったのです。八房は玉梓の妖力の影響下にあったのです。
伏姫は主君の言葉は絶対と発言し、約束を果たすため八房の嫁になると、ともに富山の洞窟にこもってしまいます。姫を取り戻しにきた許婚の金碗大輔(かなまりだいすけ)は、鉄砲で八房を撃ち殺すが、伏姫にも傷を負わせてしまう。八房の気を感じて懐妊してしまっていた伏姫は、犬とは交わっていないと身の純潔を証するため、大輔と父義実が見守るなか、自害してしまいます。
このとき、伏姫が幼い頃に、洲崎観音養老寺の開祖とされる役の行者(えんのぎょうじゃ)の化身から護身の数珠を授かり、そこから八つの玉が飛び散ります。この玉こそ、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の霊玉であり、やがてこの玉を持つ八犬士が登場し、物語は始まります。同じ房総にある洲崎観音養老寺も「八犬伝」のゆかりの地をされます。
ただこの伏姫籠穴、伏姫と八房が住んだというには狭く無理があるかもしれないと思うも、そこは日本最大級のファンタジー巨編、『南総里見八犬伝』のゆかりの地とされているゆえ、深くは考えないこととする。