虚と実が交錯する映画「八犬伝」

江戸時代に滝沢馬琴によって創作された「南総里見八犬伝」をベースに、独自の視点で再創造を加えた山田風太郎の「八犬伝』。この「八犬伝」を元に作られたのが、映画「八犬伝」。

映画は「虚」の世界として、創作の「八犬伝」の世界を、「実」の世界として、作者の馬琴の世界を、交錯しながら描いています。私は、それまで、知らなかったのですが、馬琴が「南総里見八犬伝」を28年もの歳月をかけて書き上げたこと、さらには晩年は目が見えなくなるも代筆で仕上げたという、まさに生涯をかけた執念の作品だったのです。

「実」の世界の中心は、馬琴と北斎だ。すでに老人となった二人の天才の軽妙なかけ合いを描いているわけだが、還暦もすぎた私としても、お互いリスペクトしあって無意識に支えあう、「老いてなお、高みを目指す」と発言する、二人の関係性は、うらやましい限りと思った。さらに未亡人となった義理の娘のお路(みち)が、献身的に馬琴の代筆をした話も、どこまでが、本当なのかわかりませんが、馬琴は恵まれた作家人生を送ったと言えそうです。ただ、短い時間で、馬琴ら登場人物の、人となりをわからせなくてはならないためか、人物描写が教科書どうりという気もしなくなかったのです。

「虚」の世界では、見せ場である、芳流閣の屋根の上の戦いなどCGも多用し映画ならでは、の表現もありますが、長すぎる「南総里見八犬伝」の世界を、ぎゅっとまとめなくてはならず、はじめて「八犬伝」の世界に触れた人が、全体像がわかったか、ということに関してはやや疑問も残りました。八犬士のキャラクター分けなども正直よくわからなかったんじゃないのかな、と。逆に、悪女である玉梓を演じた栗山千明が光っていた気がします。

個人的には「南総里見八犬伝」って気になっていた物語なので、映画がきっかけで、山田風太郎の小説を読んでみたり、館山に行ってみたりのきっかけになったのは、よかったなと思います。

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