サルバドール・ダリの奇想と美学:鏡の裏側への旅

20世紀美術界における最大の鬼才といえるのがサルバドール・ダリです。彼がテーマの映画「ウェルカム・トゥ・ダリ」も公開され、ダリの晩年にスポットを当て、ダリの奇抜さ、ガラとの不思議な関係性を描いた作品でした。70年代、日本を代表する画家・横尾忠則氏が、ポルト・リガルのダリの家に行って、自身の画集を見せたら、ダリは「これが君の作品か、俺は君の作品、嫌いだよ」とポーンと画集を投げたと、横尾氏はそんなパフォーマンスをする人だった、自分の人生を劇化して生きた人だと、ダリとのエピソードを語っています。

そのサルバドール・ダリですが、映画においても描かれているように、自身を商品化し、クリエイティブな分野で世間を挑発し続け、金銭的成功を収めたアーティスト、としても広く知られています。彼は時代のメディアの発展とコマーシャリズムに巧妙に適応し、創作の幅は絵画のみならず、映画やバレエの舞台美術、飽食のデザインまで多岐にわたりました。ダリの成功には彼の独自の無意識の世界を表現する創造的な力が大きな影響を与えました。

ダリの作品には、彼の心の奥底に潜む複雑な要素も影響したと言えます。彼の深層心理と創造性に関する研究では、ダリが二律背反的な要素を巧みに組み合わせ、バランスを取ろうとしたことが指摘されています。ダリの芸術は非合理性の追求に焦点を当て、作品を通じて表面と内部、現実と超現実の関係を表現し、その絵画は重力を感じさせない浮遊的な表現や皮膜性など内面への関心を鮮明に表現しました。

さらに、ダリの食の嗜好も彼の個性を反映しており、鎧をまとった甲殻類や貝類などの特異な食事習慣がありました。これは彼の奇行や自己演出の一部と見なされ、外面と内面の対照的な側面を示唆しています。

また、ダリの人生にはトラウマと密接な関係がありました。彼は幼少期からさまざまなトラウマに悩まされ、これらの体験が彼の芸術に影響を与えました。兄へのコンプレックス、死の恐怖、などが、彼の内面に刻まれました。しかし、ガラとの出会いは、ダリにとって心の平安をもたらし、彼の作品制作におけるミューズとしての役割も果たた、一方で、映画でも描かれていますが、「ねずみを追い詰める猫のように」ダリを支配したといいます。ダリとガラの不思議な関係性。ガラの死後、ダリは筆を折り、抜け殻のようになってこの世を去ったといいます。

ダリの人生と芸術は、映画化されるほどに、内面の複雑さと外見の奇抜さ、トラウマと創造性の相互作用によって特徴づけられたといっていいでしょう。
ダリの独自の世界観は、永遠の謎と魅力を提供し続け、私たちの心に訴えかけてくるのです。

日本を代表する前衛作家・寺山修司。寺山修司が中学生のときに見た夢、鏡を見ている自分の目から蟻が這い出してくるという夢をを見たと言います。後年、寺山はダリが映画監督のルイス・ブニュエルと共同で製作した「アンダルシアの犬」で男の手から蟻が這い出してくるシーンを観てびっくりしたと発言しています。

寺山はそこから、“手の中央の黒い穴かによって、通底している表皮と内核といったものについて、考えぬわけにはいかなくなった”とし、“ダリの世界は事物の表面への猜疑にあふれている”と彼のダリ論を展開します。少女が海面=表皮をペロリとめくっている絵を例に出しながら、ダリの好奇心は表皮をめくることだと、いうのです。

そのイメージは私にとっても印象深く、それはカルロス・サウラ監督がスペインの奇跡の3人、ダリ、ブニュエル、ロルカ、を素材に創った映画「ブニュエル ~ソロモン王の秘宝~」を観た時、そのまさに海面=表皮をめくるシーンがあり、あっと、声が出そうになるくらい感動したのであった。

寺山修司は言います。“おそらく、ダリにとって水面は、鏡面のようにその裏側への関心を誘うものであるのだろう。それを、めくってみたいと思う動機は、ほとんど鏡の裏側を引き剥がしてのぞいてみたい、という衝動と変わるものではないかもしれい。”そのようなダリの美的世界は“内部によって、表面が犯されつづける”ことではないか?と。

その寺山修司がダリと面会した時の会話。

  ダリが「女の顔はただのピクチャにすぎない」と言った。

  ダリが「テレビについてあんなにすばらしい表面はないよ」と言った。

そして、なぜか“めくる”という言葉を打ちながら子供の頃に、流行ったスカートめくりを思い出してしまったのだ。それは女の子のスカート(=表面)の向こうには何があるのだろう?という興味に違いなかった。おそらくHな感情の萌芽ではあるのだが、セクシャルな感情とダリ的関心の行為は結びついているのだ!勝手に関連付けることにした。

少女が海面=表皮をペロリとめくって、海の底にいる犬を見る絵、寺山修司もエッセイに取り上げるくらいだから共振するものがあったのだろう。

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