西ドイツ戦後を力強くキュートに生きた女性の物語

映画「マリア・ブラウンの結婚」(1979年)

■製作年:1979年
■監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■出演:ハンナ・シグラ、クラウス・レーヴィッチュ、イヴァン・デニ、他

ドイツのニュー・ジャーマン・シネマの旗手とされたライナー・ヴェルナー・ファスビンター監督の代表作「マリアブラウンの結婚」。1979年に製作された映画は日本公開当時、映画館で見ており、ファスビンターという名前と主演の女優ハンナ・シグラという名前を強烈に印象づけた映画でした。特にハンナ・シグラという女優のイメージは強く残したのです。

映画は第二次対戦後の西ドイツ史に、一人の女性がたくましく生きた物語を合わせていくもので、冒頭のヒットラーの写真が爆風で吹っ飛ぶとそこには、爆撃を受けている中で戸籍登録所で結婚しようとしているカップルがいる。彼と彼女は親族や関係者が逃げ惑うなか何とか地べたにはいつくばり婚姻届に印鑑を押そうとします。マリア・ブラウン(=ハンナ・シグラ)は、この爆撃の中であげた結婚の翌日には夫が兵役に取られてしまい、そのまま生存が不明となってしまう運命を引き受けてしまいます。

物資はなく貧しい生活の中で母と暮らしながら復員してくる兵士らの中で夫を待ち、探す日々。やがて、マリアは生きていくためにキャバレーに働きにでます。客はアメリカ兵、黒人の兵士が彼女に見初め、関係を持つようになります。やがて子供を身ごり堕胎。この黒人兵士とまさに関係を持とうと抱擁しているときに、夫は帰還してきます。夫と黒人兵士は言い争いますが、その時の黒人は丸裸でなんとも情けない格好。ビール瓶でマリアが兵士を殴り殺してしまいますが、夫が身代わりとなって投獄されます。

マリアは生きていくために繊維関係の実業家に接近し肉体関係を持ち、彼を恋の虜にさせてしまいます。彼女はビジネスの才があったのか、裕福になっていきます。そんななかで、彼女は恋と愛は違うと夫に対して終生の愛を誓っており、獄中の夫との面会をとても大切にしますが、それに相反して実業家の方は彼女への思いはつのるばかり。

今回この映画を見直して印象に残るのは、マリアという女性の力強さ、敗戦後の瓦礫の中から生きていくという覚悟とあっぱれな行動。そして、最後に出獄してカナダへ去って行った夫が再びマリアのもとに戻って着たときの、彼女のうれしそうな姿は印象的です。黒いガーターの下着姿なのですが、色っぽいというより、女性のうれしさ、無邪気さが出ていてむしろカワイイ。ラストの意外な展開で幕引きになるまで、ファスビンター監督の映像は飽きさせずに見せていきます。

ところで、この「マリア・ブラウンの結婚」は40年くらい前に見ているわけで、同じ映画を見ていても受ける印象は違います。「マリア・ブラウンの結婚」という映画は、戦争の犠牲者を描きながらも、暗さはなく、カラッとした空気感でテンポがいい。ファスビンター監督の力量を感じる映画、名作と言えます。

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