夢の世界に迷い込む~カフカの「田舎医者」
フランツ・カフカの短編小説「田舎医者」は、とある田舎の医者が、雪が降り積もった夜に急患のもとへ向かうという設定から始まりますが、次第に不条理でまるで夢の世界に入りこんだような展開を見せるのです。
医者は急患のもとへ行くために馬車を探しますが、馬が見つからず困っていたところ、豚小屋を蹴ると謎の男が現れ、女中を追っかけまわし、馬を提供すると、医者は一瞬のうちに患者の家に到着してしまう。患者は少年で、医者は、少年は健康だと判断するが、腰のあたりに傷がありウジ虫が湧いているのを見つけ、今度は、助からないと思う。
医者は、なぜか、村の老人らに服を脱がされる。外では小学校の合唱隊が、癒さぬなら殺してしまえ。ただの医者にすぎないというような歌を歌う。医者は医者で、森の中で脇をむき出しにしていたから鍬を二度打ち込んだ傷だとわけのわからぬことを言い、裸でこっそり少年の家から逃げ出そうとする。医者は裸のまま馬に乗り、あてもなくさ迷っている。この意味不明な展開を、夢の世界以外になんと評すればいいのだろう。
この「田舎医者」は、2007年に山村浩二監督によってアニメーション映画化され、作品は国際的評価の高い。
私は、このアニメーションをDVDで観たのですが、カフカの摩訶不思議な世界、一回読んだだけでは、わかりづらい原作世界を、ある意味、忠実に、そして見事に映像化していると思いました。映像を見て、そうだったのか、なるほどなと思い、クリエイティブの力を感じました。
DVDの特典に入っていたのですが、山村監督とカフカの翻訳もしているドイツ文学者の 氏とのトークショーをした時の映像が入っていて、山村監督は、カフカ小説は、時間が伸び縮むすると話し、故・池内紀氏がそれを受けて、カフカの小説は、まさに眠るときに見る夢のようで、夢も時間が伸び縮みしますよね、と話していたのですが、この小説「田舎医者」は、そんな夢的な要素が満載の幻想的世界を描いたかのような作品です。山村監督のアニメーションも、人間の体がゴムのように、伸び縮みし、声で出演している狂言師の茂山氏が、それに深みを与え、非現実的な幻想的な作品でした。
結局、医者はなんだかんだと言いわけしながら、『まちがって鳴らされた夜の呼び鈴』『はかられた!はかられた!』と少年を治療することなく、雪の積もった村を裸で馬に乗り『あてもなくさすらっている』のでした・・・・・・。