「メリークリスマス、ミスター、ローレンス」

映画「戦場のメリークリスマス」(1983年)

■製作年:1983年
■監督:大島渚
■出演:デヴィッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、他

希代の音楽家・坂本龍一が亡くなった。私の世代で言うと、学生時代にYMOが席巻し、若者はテクノカットと呼ばれるヘアーが流行した。今から40年以上も前の、その時代、鳴り物入りで大島渚の作った映画「戦場のメリークリスマス」が公開された。カンヌ映画祭のグランプリ間違いなしとマスコミを賑やかせたのですが、結果は同じ日本の今村昌平監督の「楢山節考」が賞を取ってしまうという落ちがありました。

この「戦場のメリークリスマス」、坂本龍一やビートたけし、デヴィット・ボウイが主演するという日本映画において規格外の作品で、音楽担当した坂本龍一はテーマ曲がヒット、後にアカデミー賞を受賞するなど世界の坂本龍一のきっかけとなった映画。「戦メリ」とショートカットされて呼ばれ、間違いなく日本映画史に残るであろう作品なのです。たけしもこの映画がなかったら、映画製作に乗り出し、世界のたけしと言われるようにならなかったかもしれません。

「戦場のメリークリスマス」、私は公開当時に観に行きましたが、20代の私は正直ピンときませんでした。こんなに騒いでいるのにどうなんだろうか?と・・・。しかし、時代を経て、還暦を過ぎたこの歳になって再び観たら、印象は全く違いました。すごい映画だと。なかなかこんな映画は生まれない。観念的な部分も多いのでわかりづらい部分もあるのですが、大島渚のひとつひとつの場面に込めた想いがビンビン伝わってくるのでした。

たけし演じるハラとローレンスのヒューマニズムの一端も感じられる人間関係のリアルな微妙なはざまと、坂本龍一演じるヨノイとデヴィット・ボウイ演じるセリアズの美意識と同性愛を想起させる純愛にも似た感覚とトラウマ、それら微妙な関係性が捕虜収容所という空間で繰り広げられる。もし戦争という異常事態がなければ、この4人は混じりあうことはなかったかもしれない。あるいは混じりあう機会があればお互いが尊重しあえる関係になりえたかもしれない。そう思うと、ラストの有名な「メリークリスマス」もさらにグッとくる、あの最後のシーンは坂本龍一の音楽とともに忘れえぬ映像だ。

実はブレた映像がカメラのミスだったというデヴィット・ボウイが、歩み寄り坂本龍一の頬にキスをする映像、そのおののきの顔も国粋主義と個人主義の美の感性が揺れる感じが表現されていたと思います。戦争がテーマだけども戦闘シーンはない、そして、3人の死を想起させる映像やセリフしかない。死を前にすると人は寛容になり、何が大切かが見えてくるのだろう。

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