まるで老賢者のような・・・神話を語る話にパワーを感じる

「神話の力」(ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ)ハヤカワ文庫

ジョーゼフ・キャンベルの「神話の力」、この本をはじめて見たのは何十年前だろう?ジョージ・ルーカスがジョゼフ・キャンベルによる神話学の影響を受けて「スターウォーズ」を作ったという、今では伝説的な話もこの本の関連性で知った。

なので本の存在は知っていても、ハードカヴァーゆえに持ち歩くのも大変なので、なかなか読んでみようとまで思いませんでした。それが文庫本化されたのを見つけ、いい機会だから読んでみようと。

内容は対談形式なので学術系的展開ではなく、読みやすい。そこでキャンベルは神話の有用性、意味を語っているのですが、もういぶし銀の領域というか、老賢者の知恵が詰まった本、という感想でした。キャンベルのさりげなく発言している一言一言がとても大切な投げかけをしているように思います。ある意味「スターウォーズ」のヨーダのような。

どれも心揺さぶられるのですが、一つ例を出すと、生と死、男と女、昼と夜、魂と肉体、この世は様々な二面性に溢れており、片側からはけっしてもう反対側の事情を深く理解することができない。しかし我々はこの二面性のサイクルの中で生きており、二つを融合していくことが大切である。特に結婚は二面性の融合を果すことが大きな目的なのだと。

そのなかでこの魂と肉体ですが、肉体は時間と空間に縛られているのでそこから抜け出すことはできない。過去、現在、未來の軸のなかでしか物事を理解することができない。肉体が滅してようやく魂は時空間の制約のない世界に行くことができる。魂は永遠性の世界へ行くのだというのです。

そこまではよく言われることなのですが、キャンベルはこの永遠性は、「今ここ」の瞬間にしかないというのです。「今ここ」の考え方はたぶん自己啓発でも、マインドフルネスでも、神道のなかいまでも、哲学でも様々な共通項を見ることができるわけですが、キャンベルは「今ここ」こそ永遠、つまり瞬間こそ永遠なのだというのです。

そうした逆説的思考はこれまでに聞いたことがありますが、そうかなー、くらいで私にはピンと来ませんでしたが、キャンベルの老賢者の会話を読んでいると、すごく腑に落ちた気がしました。瞬間=永遠、永遠=瞬間なので、だから「今ここ」を、完全に理解することはできないものの、意識することが大事だというのはわかる気がします。

マインドフルネスが呼吸に意識を持っていき「今ここ」を感じる瞑想であるように、たぶんですが、私という存在を感じると同時に、私ではない自他が同じだということをも一瞬でも感じることができるような気がするのです。

同じような話はいろいろな方からも聞きましたが、私にはキャンベルの本から得たことが一番しっくりきたように思いました。それは人類の知恵が詰まった神話を研究し尽くした言葉ゆえ、その重みも違ったように感じたのでしょう。

●人間がほんとうに求めているのは<いま生きているという経験>だと私は思います。純粋に物理的な次元における生命経験が自己の最も内面的な存在ないし実体に共鳴をもらたすことによって、生きている無上の喜びを実感する。

●神とはなにか。神とは、人間の生命の営みのなかでも、また宇宙内でも機能している動因としての力、ないし価値体系の擬人化です。あなた自身のさまざまな力と、自然のさまざまな力との擬人化です。神話は人間の内に潜んでいる精神的な可能性の隠喩です。そして、私たちの生命に活気を注いでいる力と全く同じものが世界の生命にも活気を与えているのです。

●天国も地獄も私たちの内にありますし、あらゆる神々も私たちの内に生きています。

●夢は葛藤しているさまざまな肉体のエネルギーがイメージの形で表れたものだ。それが神話の正体です。神話というのは、肉体器官のたがいに衝突しあっているエネルギーが象徴的イメージ、隠喩的イメージの形で顕現したものです。この器官はこれを求め、あの器官はあれを求めている。大脳もそういう器官のひとつです。

●対立項の世界を超越したなにかと自己とが一体であることを自覚できるような、そんな意識の次元があるということです。

●私たちが知っているあらゆるものは存在と非存在、多と一、真理と誤謬といった観念用語の範囲内にあります。私たちはいつも対立した諸観念のなかでものを考える。しかし、究極者である神はあらゆる対立観念を超越している。

●私とあなた、これとあれ、真実と虚偽ーあらゆるものにその反対物がある。しかし神話は、二元的世界のかなたに一元的な世界があり、二元性はその上で演じているシャドー・ゲームに過ぎないということを暗示しています。

●各個人が内面に、向かって開かれたイニシエーション儀礼を経ることによって、しだいに深く深く自己の底へと進むのですが、ある瞬間に自分はいつか死ぬ身でありながら不滅である、男性でもあるし女性でもある、という自覚に到達します。

●あなたの生(ライフ)は、いま自分で見ているものよりも、はるかに深く、はるかに広い。いまあなたが生きているその生は、げんにあなたの内にあるもの、あなたに生命を、呼吸を、深さを与えているもののうち、ほんのわずかな影くらいに過ぎません。それでもあなたはその深みのおかげで生きられるのです。

●私たちの感覚能力は時間と空間の領域内に閉じ込められ、知能もまた思考のカテゴリーのなかに閉じ込められています。

●あなた自身が悪に加担しているのです。さもなければ生きていけませんから。あなたがなにをやろうと、それはほかのだれかにとって悪なのです。これは被造物すべてにとってのアイロニーのひとつです。・・・・・・ある人にとっての悪が、他の人にとっては善なのです。

●永遠は、時間とは無関係です。永遠は時間領域内のあらゆる思考が切り離している<いまここ>の次元です。ここで永遠をとらえない限り、他のどんなところでもそれはとらえられません。

●万物すべてにおいて永遠を経験すること、それが生命の機能なのです。

※ 「神話の力」(ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ著・飛田茂雄訳)ハヤカワ文庫 から引用

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