犯罪が形而上学になるSF「マイノリティ・レポート」

映画「マイノリティ・レポート」(2022年)

■製作年:2002年
■監督:スティーヴン・スピルバーグ
■出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、他

フィリップ・K・ディックの短編SF小説を原作にスピルバーグがトム・クルーズの主演で映画化した作品。2002年というから20年前の映画ですが、今公開されたものと言っても全く遜色ない映像のクォリティの高さです。

スピルバーグのそれこそ「激突」「ジョーズ」といった初期の作品から見ると格段に映像の表現技術は進歩している。CGという技術の進歩と映画の文法を知り尽くしたスピルバーグだからこそなせる技。

マイノリティレポートとは、近未来、予言者(プレコグ)と呼ばれる3人の予知能力者が未来に起こり得る犯罪を予知し、それにより事前に殺人事件を予防するという摩訶不思議な仕組みで、それにより殺人事件発生率は0%になったというフィリップ・K・ディックが設定したもの。

つまり殺人事件は予知能力者のビジョンにより、犯罪予防局が出動し犯人は未遂のまま連行されてしまうというのだ。しかし、現実はその予知夢のまま進行されるのだろうか?もしそうではなかったとしたら?

そこは必ずしも3人がすべて同じ予知夢を見るわけでもない、2人が殺人を犯す予知夢を見ても、1人が違う予知夢を見ることがあるケースもあるというのだ。その場合、確率論的にそれはマイノリティ・レポートとして扱われ秘匿されることになるという。

冤罪であったということはないのか?そんな疑問がでてくる。そこで犯罪予防局の辣腕刑事であるトム・クルーズ演じるアンダーソンが犯罪を犯すという予知夢がでてしまう・・・。そこから彼の逃亡とシステムとの戦いが始まる。

『彼らは実行しないーこちらが先手を打つからだ。彼らが暴力行為を犯す前に。このため、犯罪そのものが完全な形而上学の問題になる。われわれは彼らが有罪だと主張する。彼らはその逆に、自分らは無罪だと永遠に主張しつづける。たしかに、ある意味で彼らは無罪なんだ』

『ふたりのプレコグにいる多数報告のほかに、時間や場所について多少食い違う第三のミュータントの少数報告(マイノリティ・レポート)が得られる場合が多いのです。これは多重未来説によって説明できます。もし、たったひとつの時間線しか存在しないのなら、未来を変えられる可能性がないのだから、予知情報を手に入れても意味がないわけです。』(『』部分、「トータル・リコール」所収「マイノリティ・レポート」 フィリップ・K・ディック (浅倉久志・訳)早川文庫より引用)

私は一体誰なんだ?というアイデンティティ・クライシスを描いたフィリップ・K・ディックは、「ブレードランナー」「トータルリコール」を見るまでもなく、映画という物語を創造するにあたり、イマジネーションを飛躍させてくれる刺激に満ちた作家といえそうです。

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