超難解なハイデガーの「存在と時間」をわかりやすく解説してくれた、ほっ・・・。

そんも昔、ハイデガーの「存在と時間」という哲学書を読んでみたことがあります。哲学書は抽象的な書き方で、やたら難しい。1ページに進むのにどれだけ時間がかかるのか・・・。わからないまま、読み進めて結局は何をいいたかったのか、さっぱり頭に入っていない。しかし、このハイデガーが哲学という分野でゆるぎない金字塔を立てており、多くの人たちに多大な影響をあたえているのです。

NHKのEテレで「100分de名著」という番組があり、様々な歴史的な書物をわかりやすく解説しているものがあり、けっこうその番組みているんです。去る4月の特集は、ハイデガーの「存在と時間」がテーマとなっていました。戸谷洋志という若い哲学者が解説していたのですが、とても分かりやすく面白かったのです。

「存在と時間」というようなタイトルにあるように、ハイデガーは「存在とは何か」という哲学の根源的な問題に切り込み、哲学史において革命的な一冊となったというのです。これによりハイデガーは一躍有名になったのですが、「存在と時間」は未完の書であり、ついに完成を見ることなく終わってしまった。未完にも関わらず、これほどの業績を出すことができたのは、それほどこの本がすごかったということの証。

ここからは、戸谷氏の番組の解説の受け売り、メモ的になっていきます。この存在とは何かという問いを立てるあたり「〇〇がある」を「〇〇」を存在者、「がある」を存在と分けました。実は多くの場合、存在をみた時に存在者をみてしまっているというハイデガーの着眼点の秀逸さがあるというのです。そして存在者のなかでも人間を議論の出発点として、人間とは呼ばずに「現存在」と呼びます。

その現存在は、自分自身の存在を理解しており、そこから自分の存在を「実存」と呼び、おおっ、実存主義とはこうした点から見ていることを指すのか、とわかったのです。その現存在=人間は、いついかなるときでも過去と未来につながり、それが混然一体となったもの、現存在はどんな時間を生きているのか?ということから「存在と時間」になるというのです。(なるほどね、ハイデガーは時間はあらゆる存在了解一般の地平と述べているそうです)

その現存在としての人間ですが、いつでも同じように存在しているのではなく、様々な様態がありそれは多様だと。ハイデガーはそれに対し、自分本来のあり方を自分で理解しているのを本来性、自分自身でないものから自分を理解している場合は、非本来性と呼びます。そして人は瞬間瞬間でそのどちらかに変わっている、それを可能性と読んでいるのですが、ハイデガー曰く人間は、ほとんどの場合、非本来的に生きているというのです。

そして現存在が生きている環境を世界として、現存在を世界内存在とも呼び、イコールそれは暮らしの場ということであると。

ここで非本来性とはなにか?人は世間とか空気といった匿名的な他者=世人に影響されてしまう。その自分ではないものによって自分を規定してしまうことを、非本来性とハイデガーは言っているようで、いやいや私は世間に逆らって、あるいは、流されず自分の考えを貫いていると言いきる人も実は比較対象があることで世人に影響されている。この見えない世人はすべての現存在に影響を与えているというのです。特に日本人の国民性を見ていくとそうした世人の影響は強いと言えそうです。赤信号、みんなで渡れば怖くない??

誰もが抗えないという非本来的な状態から脱却するにはどうしたらいいのか?そこで「死」というキーワードが出てきます。自分の死は誰とも交換することができない、それは100%確実でいつやってくるかもわからないし、死を追い越すことはできない。確かにそうですね。先日も義母が元気だったのに突然倒れてそのまま亡くなってしまいました。それを聞いたときは衝撃的でした。超元気でも交通事故に巻き込まれ突然亡くなることもある。ハイデガーのこの部分の説明を見たときは、突然やってくる死ということを考えるようになりました。死のこの大原則に抗うことはできない事実。

この死についてハイデガーは、現存在にとってもっとも固有な可能性であると見なしたそうです。死の可能性に向き合うとは、私は今のままでいいのか?これでいいのか?と自分の生き方を問うことと直結しており、死に臨む存在である私は、その可能性から生き方を考えるということとなる。ハイデガーは先駆というようですが、この先駆とは死は足元にあるものであり、私たちが考えるよりずっとハードルが高い要求というのです。なので簡単にはできないこと。

ではどうしたらいいのか?そこで第二のキーワードとして「良心の呼び声」をあげています。良心の呼び声は根源的、私が 私に呼ぶことにより私を夢から覚めさせる声というのです。良心は私を非本来的な状態から覚醒させると。自分の心の声に素直に耳を傾ける・・・。なかなか深い話。

哲学書なので難解な言葉が並び難しくてつい投げてしまうのですが、この番組のようにわかりやすく解説してくれるのはとてもいい感じ。ハイデガーの「存在と時間」のほんの入口なのだと思いますが、本を読んだだけでは、入口さえにもたどり着けない(笑)今回の記事は、全面的に戸谷洋志氏に解説によっています。さらにハイデガーはナチスに加担したという問題もあり、奥は深いのです。

ところで、この「100分de名著」ハイデガーの「存在と時間」の説明を聞き、私は黒澤明監督の映画「生きる」を連想しました。うだつの上がらない役所職員がガンを宣告され、いろいろば部署をたらい回しにされても食らいつき公園を完成させ、ブランコで「命短し、恋せよ、乙女・・・♪」と歌う名場面がある名作です。この主人公は死と向き合うことに本来的な生き方が目覚めたということだ。この番組を見るまでハイデガーと黒澤明の「生きる」が結びつくなんて想像もしていませんでした。

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