ギレルモ・デル・トロの「ナイトメア・アリ―」は、透視にタロット、カーニバル的サスペンス映画

映画「ナイトメア・アリ―」(2021年)

■製作年:2021年
■監督:ギレルモ・デル・トロ
■出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、他

映画「ナイトメア・アリ―」。書店で原作本を見つけ、それがタロット・カード仕掛け、カーニバル的世界を描いたサスペンス小説と知り、それを映画化したのが「シェイプ・オブ・ウォーター」を監督したギレルモ・デル・トロ、ときたら見ないわけにはいきません。まずは原作を読み、そして映画を観たのですが、けっこう原作は読むのが、独特の凝った風味がありで意外と大変だったのですが、ギレルモ・デル・トロが想像以上の映像で魅せてくれました。

つまり、映画は総合芸術に相応しく、個人的にちょっと読みづらいなと感じた原作を、こう表現するんだ・・・と幻惑的な映像世界をスクリーンに映し出しました。翻訳された原作を読み直後に映画を見るということをしたのですが、あらためて、映画とは俳優、監督、撮影、美術など多くの人々が関わり、一つの映像世界を作りあげていくのだということを感じさせてくれました。そこに展開された映像は私の脳内の世界よりはるかに豊潤なイマジネーションの世界を魅せてくれたのです。

見世物小屋において、ショーの目玉としてこの世の脅威と売り出されるギーク=獣人。彼は正真正銘の獣性の人という触れ込みで観客には紹介されるも、楽屋裏でも檻に入れられ全く人としての扱いをされない、そこには見世物小屋側とギーク側の事情と言うものがあるとはいえ、人間性といったものを無視し、惨たらしくひどい扱いをする見世物小屋という存在。それは人生の失敗でにっちもさっちもいかなくなった脱落者を迎え入れる居場所でもある一方で、泥沼のような人の扱いは、カオス的な空間なのだとも言えるのでしょう。

ところで、映画では主人公が「幽霊ショーはやめたほうがいい」というアドバイスに対して、タロットカードをひく場面がありました。1枚目は「塔」(正位置)、2枚目は「恋人」(正位置)、3枚目は「吊るされた男」(逆位置)。3枚目の「吊るされた男」を正位置に戻した。これがどのような運命を暗示しているのだろうか?

映画で並べられたタロットカード

ちなみに、タロットカードの持つキーワードを見ると、「塔」の正位置のカードは、破壊、アクシデント、ショック、性的刺激。「恋人」の正位置のカードは、コミュニケーション、選択、若さ、パートナーシップ。そして「吊るされた男」の逆位置のカードは、忍耐、我慢の限界、妄想、自己犠牲的といったようなものがあります。(「タロット占いの基本」吉田ルナ(ナツメ社)参考)いつかどんな意味があるのか、タロット占い師に聞いてみよう。

「ナイトメア・アリ―」では、二人の女優が圧倒的な存在感を見せます。まずはトニ・コレット。タロットの使い手であり、読心術によって観客を魅了する。この読心術、タネがあり相棒がいて、暗号を駆使しながら巧みに透視していくわけだが、トニ・コレットの容姿がいかにも魔女的であり、抜群の存在感で謎めいた雰囲気を出している。

そしてもう一人が、精神科医を演じるケイト・ブランシェットです。彼女のクールさは他を寄せつけないほど孤高の存在感があります。主人公の男にとってはファムファタール的な存在であり、かつ、抜け目ない鉄壁の女性。ここまでクールな役柄はそうそう見ないし、ケイト・ブランシェットでなければ演じられないだろうと思わせるキャスティングでした。

この二人の演技がとても印象的だったのです。

「ナイトメア・アリ―」は見世物小屋の世界からショービジネスの世界へ展開し、そこで金と欲望の欺瞞的な仕掛けで転落する男が主人なのですが、奈落から這い上がり天国へ、やがて再びさらにひどい奈落の底へと転落していく円環的な構造をこの映画は持っていました。 映画館でみたのですが、DVDが出たらもう一度じっくり見てみたいと思いました。

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