未だ色あせない魅力を放つマン・レイのマルチな才能
マン・レイの名前を知ったのは、今から40年前の学生時代にシュルレアリズム展を見に行った時だと思います。「アングルのバイオリン」という写真が展示されていて、なんという組み合わせ!と驚いた記憶があります。女性のヌード(背中)をバイオリンに見立て、弦楽器のf字孔を描いた作品です。このイメージの飛翔は当時の私にそれなりのインパクトを与えました。このあまりにも有名な写真のモデルはキキ・ド・モンパルナスと呼ばれた女性。
マン・レイとは愛人関係にあり、ユトリロ、モディリアーニ、キスリング、藤田嗣治といった著名な画家たちのモデルにもなった。そんなこともあり、キキという女性の名前は私でも聞いたことがあるわけです。
ちなみにマン・レイという名前は、彼がユダヤ人であることから差別を逃れるために名前を変えたそうです。本名はエマニュエル・ラドニツキー。ほんとにユダヤ人はさまざまな分野において他の追随をゆるさないような多数の超才能ある人を輩出していますね。驚くばかり・・・。
そのマン・レイ、私は当初は写真家と思っていたのですが、人気があるんでしょうね、何度もマン・レイ展が開催され、都度その展覧会を見に行くうちに、ただのシュルレアリズムに関連する作家ではない、そんなことがわかってきました。絵画や立体作品、映画などその作品は実に多岐にわたり、むしろマルチなクリエイターというイメージなのです。
彼が活躍した時代のパリには名だたる芸術家たちが集まり揃い、そして交流を持ち、作品表現に対して様々な実験的な手法が試みられた、まさに感覚、感性が開かれていったのでしょう。そしてうらやましいことにキキ・ド・モンパルナス、リー・ミラー、ジュリエット・ブラウナー、メレット・オッペンハイム・・・といった女性たちのミューズとしての力を得た。
ジャンルを超えて自由自在に表現したマン・レイは、今に通じるクリエイターの元祖であり、彼が残した数々の作品は、それを見た表現者が刺激を受け、新たな作品を生み出していっているような気がします。だからこんなにも人気があるのだと思います。