プラハのカバラ伝説「ゴーレム」を題材にしたドイツ幻想小説
「ゴーレム」グスタフ・マイリンク(今村孝・訳)
第一次世界大戦下、グスタフ・マイリンクによるドイツの幻想小説「ゴーレム」、偶然、図書館で見つけて借りて読んでみた。ゴーレム伝説はプラハのユダヤ人による人造人間の話なんですが、この小説はそのゴーレムは出てきません。(なんでゴーレムのタイトルつけたの?)むしろ時空を超えたどこからが意識でどこからが無意識かわからないような感じの幻想的な小説でした。出版されたとき熱狂的に読まれたという小説なのだのだそうですが、翻訳が悪かったのか、いまいち面白くなかったです。日本語になった文章が、その世界に没入できるものではなかった感じ。残念・・・。
せっかくなので、今回、その中で小説に出てきたゴーレムやカバラに関する部分を引用してみました。
「そのときぼくの心のなかでゴーレムの幽霊伝説が、あの人造人間の伝説がそっと目を醒ました。かつてこのゲットーで、カバラに精通したラビが、土くれで人間をかたどり、歯の裏に魔法の数にかかわる言葉を押しこむことによって、痴呆の自動人形をこしらえたのだ。
「ことの起こりは十七世紀にさかのぼると言われてる。カバラのいまでは散逸してしもうた規定書に従って、あるラビが、下男にして教会堂の鐘をつかせたり、いろんな雑用をさせるつもりで人造人間を――つまりゴーレムをだな――こしらえたと言うんだ。ところがまともな人間ができずに、そいつには鈍重な、半分痴呆の、植物みたいな生命しか宿らんかったんだな。しかもその生命も昼間だけのもんで、そいつの歯のうしろに貼った護符の力で宇宙の星の、あいてるエネルギーを借りてたんだそうだ。ある晩のこと、そのラビが夜の祈りのまえにゴーレムの口から護符をはずすのを忘れたら、ゴーレムのやつ急に狂暴になって、裏町の暗闇を狂いまわり、出くわすものを片っぱしから叩きつぶした。しまいにラビーナが体当りして、やっと護符をはがしたんだそうだ。」
「ーーあんたはユダヤ教の秘密の教義、つまりカバラのことを知ってるだろう、ヒレルさん?」
「少しぐらいなら」
「聞きかじりなんだが、記録が残ってて、それをみるとカバラの教えがわかるんだそうだね。『ゾハール』とかいうーー」
「ええ、『ゾハール』ー『輝きの書』です」
「ふん、やっぱりそうなのか」ツヴァックは毒づきはじめた、「聖書の理解の鍵を、いいかえれば幸福の鍵をだな、そのなかに秘めとる書物がー」
「鍵といってもほんの二、三です」ヒレルが口をはさんだ。
わたしたちユダヤの言葉が子音だけで書かれているのを偶然だとお思いですか?ー自分ひとりに定められている意味を開示してくれる秘密の母音を、各人が自分で見だすためなんですよ、ーつまり生きた言葉を死んだドグマに硬直させてしまわないためなんです
ええ、あなたが!タロックには二十二枚ーちょうどヘブライ語のアルファベットの数だけあるということに、あなたは一度も気づかれなかったんですか?わたしたちのボヘミアのカードには、おまけに、見るからに象徴だとわかる絵まで、つまり愚者、死、悪魔、最後の審判なんかが描かれているでしょう?ーいいですか、あなたは、だからほんとは、人生があなたの耳に答えを叫びかけるのを、大声で求めておられるのじゃありませんか?ーむろん知る必要もないことでしょうが、『タロック』とか『タロット』というのは、ユダヤの『トーラ』つまり律法とか、エジプト語の『タルト』つまり『問いに答える女』とか、大昔のペルシア語の『タリスク』つまり『わたしは答えを求める』などと同じ意味の言葉なんです。ー学者たちは、タロックがカール六世の時代にできたということを考証するまえに、このことを知るべきだと思いますね。
ヘブライ語のアーレフの文字は、片手で天上をさし、片手で下方をさした人間の姿をかたどったもので、それはつまり『天上に行われているとおりのことが地上にも行われ、地上に行われているとおりのことが天上にも行なわれている』ということを意味しているのです。
父がいつかこんなことを言ってましたわ、カバラには魔術的な面と抽象的な面との二面があって、それらはけっして重なりあわないんですて。なるほど魔術的な面は抽象的な面を吸収できるけれども、その逆はけっしてありえないのだそうです。魔術的な面は授かるもので、もう一方は、指導的な助けがいるとはいえ、努力によって得ることができるんですって
そのときが来るまで、メトゥーザレムがみずからそこで番をしていて、悪魔がその石と交合して息子を、いわゆるアルミルスを生まないように見張っているのだそうです。―このアルミルスのことも聞かれたことありませんか?―どんな姿で生まれてくるかということだってわかってるんです。―つまり年寄りのラビたちがそれを知っているのですが、―この世に生まれてくるとしたら、黄金でできた髪をうしろで束ねて、そして頭に分け目がふたつあって、三日月型の眼をし、両腕を足まで垂らした姿で生まれてくるんです。
※「ゴーレム」グスタフ・マイリンク・著/今村孝・訳(白水ブックス)から引用