エクスカリバー!アーサー王伝説をテーマにした数本の映画
最近はその昔、ヨーロッパを覆っていたケルト文化に興味があり、関連する本を読んだりしています。ケルトにアプローチすると必ず出てくるのがアーサー王の話。この世界的に有名な中世ヨーロッパにおける伝説は、古代ケルト文化の影響を受け、様々な物語が書かれ尾ひれ葉ひれがついて、小説のみならず演劇、映画、そしてゲームの世界まで広がりを見せています。
私自身は正直、アーサー王はこれまで興味がなくほとんど最近まで無知できたのですが、ちょっとばかり興味が湧き、続けてアーサー王に関する映画を観ました。やはりイメージを掴むのは、歴史書と同時に大河ドラマなどの物語を見るのがわかりやすいように、映像を見るのが一番です。ということでアーサー王に関する映画を3本ばかり観てみたわけですが、混乱は混乱したまま??
映画「エクスカリバー」(1981年)
■製作年:1981年
■監督:ジョン・ブアマン
■出演:ナイジェル・テリー、ヘレン・ミレン、ニコラス・クレイ、他
この映画は私が40年前の学生の頃、たぶん名画座で見たように思います。映画のストーリーはほとんど覚えておらず、映画のタイトルのエクスカリバーと湖から神秘的な女性の手が出てきて剣を突き出す映像のみを憶えているだけでした。当時は主人公のアーサー王の名前も恥ずかしながら知りませんでした。しかし、ストーリーもアーサー王の名前も覚えていないのに、なぜかこの映画の空気感のようなものだけが、ずっと心に残っていたのです。学生時代から何十年と言う時間が経ってアーサー王とは?なんてことを考えている自分を考えると不思議です。
とは言いながらアーサー王の伝説は、やはり馴染みがない部分が多々あるのですが、古代ケルトを研究している元・新聞記者の武部好伸さんにどの映画がアーサー王を知るにはわかりやすいかと聞いたら、この「エクスカリバー」が網羅して入門編としてはいいとおっしゃられていました。
アーサーの出自、魔術師マリーン、岩に刺さった剣、ランスロットと王妃グウィネヴィアの不倫、異父義姉モーガンの暗躍、その息子モルドレッドの反乱、聖杯探求・・・、アーサー王伝説のキーとなる部分が駆け足ではありますが、それらが 描かれているように思いました。
映画ではアーサー王が王妃グウィネヴィアとランスロットと不義を重ねていることを知り、逢引きの現場に行き嫉妬の激情のなか彼らを処罰することができず、エクスカリバーを地面に突き刺し去っていきます。このエクスカリバーは王が持つべき剣であり、それを手にしていた時は王国は繫栄していたのですが、手放したとたんに国は荒廃しアーサー王も生きる屍のようになっていきます。王とは土地に密接に密着した存在であり常に大儀を優先して行動していかねばならない、そんな宿命のようなことも感じました。
ただ残念なのは、聖杯探求からどんどん映画は観念的になり、聖杯がどこで見つかったのか?そうしたことが曖昧なまま展開し、エクスカリバーを湖に返し、アーサー王は冥界へと旅立っていくまでがイメージ的に描かれているのでわかりづらい部分もありました。しかし、全編にわたりワーグナーの音楽が流れており、スケールの大きさや重みを感じさせてくれたのはとてもよかったです。
映画「キング・アーサー」(2004年)
■製作年:2004年
■監督:アントワン・フークア
■出演:クライブ・オーウェン、キーラ・ナイトレイ、ステラン・スカルスガルド、他
アーサー王の伝説は歴史の中で様々な物語、脚色がその周りに付随していき、その実在も疑われている世界で最も有名な中世騎士の話なのですが、この映画は古代末期に実在したアルトリゥスなる人物がアーサー王ではないか、という説を元に作られた映画となっています。
アルトリゥス=アーサーは、ブリテン島を支配していたローマ帝国に雇われた騎馬遊牧民サマタイ人の傭兵(このメンバーが円卓の騎士)を率いる指揮官。アーサーに霊力をさずける魔術師マリーンは、元からこの地に住み全身に入れ墨を施した原住民の長であり、原住民とアーサーは敵対していたものの、サクソン人の侵略により最後は力を合わせることになります。
アーサー王の指揮下の有名な騎士ランスロットも子供の頃にローマの兵役につきます。異教徒であるとローマ人に監禁されている伝説ではアーサー王の妻であるグウィネヴィアと関係を持ってしまうという話は、映画では彼女に気があるような描き方をしていましたが、そうはならず戦死してしまいます。
アーサーはローマのために尽くしてきたのですが、肝心のローマは腐敗しアーサーが思い描いていた理想は崩れ去ります。最後はサクソン人の侵略に対し迎え撃ち、グウィネヴィアは弓矢の達人で一緒に戦い勝利をおさめ彼女と結婚しブリテンの王となるという結末。
怪物などのファンタジー要素は排除し、苦難と挫折を味わいながらもそれを誠実さと勇気で克服していく騎士道精神にあふれる人間ドラマ仕立ての英雄の話となっています。
映画「キング・アーサー」(2017年)
■製作年:2017年
■監督:ガイ・リッチー
■出演:チャーリー・ハナム、アストリッド・ベルジュ=フリスベ、ジャイモン・フンスー、他
このアーサー王物語については冒頭から巨大な怪物が王宮を襲ってくる、魔術により異変が起こるなど超自然的なパワーがはたらくファンタジー要素がかなり強いものとなっていました。そして描かれる騎士道の話というよりは人物像は現代的なイメージに作られています。
幼少期アーサーは父であるイングランド王ユーサーの弟ヴォーティガンの反乱により、母親は殺され、追い詰められた父はその剣を自身に刺さるよう高く放り投げ自滅する。剣が刺さったユーサーはそのまま岩となります。これが次の真の王を証明するという岩に突き刺さった剣になります。幼きアーサーは売春宿で育つことになります。
アーサーには伝説では魔術師マリーンがいるわけですが、この映画では女魔術師メイジとなっています。また、権力を握ったヴォーティガンも水底に住む魔物に魂を売り渡しており、妖術の力が背景にあり、それらを裁いていくのがアーサーであり、その剣、エクスカリバーと言えそうです。剣の力は絶大であり、この剣は力の、正義の象徴の様なイメージです。
最後にアーサーはヴォーティガンを滅ぼし、王に君臨することになりますが、この映画ではランスロットもマリーンも登場しません。スラム街で育ったアーサーの武術の師としてカンフーの使い手である中国人がいたりと、私自身、アーサー王伝説について詳しくはありませんが、大胆解釈で書き換えられているように思いました。
そのアーサー王ですが、 現場主義がモットーの元・読売新聞大阪本社の記者である武部好伸氏が、アーサー王の全体像とそれに関連した場所を紹介した映像を51オンラインで配信中です。この映像はケルトの魅力を探った全部でオンライン講座「ケルト、癒しと再生の森」の一環で配信しているものです。この武部氏の映像を見ると複雑なアーサー王の物語がよくわかりますし、元・新聞記者なので実際に現場に足を運んでのレポートとなり、アーサー王には、こんな伝説の場所があるんだと思われるかと思います。
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