三島と同時代を生き連合赤軍も映画化した若松孝二の映画

映画「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」

三島由紀夫が自決するまでを描いた映画「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」、監督はその三島と同時代であり連合赤軍の映画も撮っている若松孝二。当時の学生運動などの時事映像を交えながら、その時代の緊張感を伝えるのように、三島由紀夫が自決するまで淡々と進んでいきます。
私は同時代でもない三島由紀夫について殆ど知らないと言っていいし、小説を読んだのも数点、割腹自殺した時は小学生でした。そもそも安保闘争ということも読み物としてしか知らない世代。

この映画は、三島由紀夫が割腹自殺するまでを描いた映画であり、三島という男をよく知られた自明の歴史的存在として描いています。なので三島由紀夫がノーベル文学賞候補にまでなった小説家で、ボディビルなどで肉体を鍛えたナルシスト、彼独自の美学をしっかりと持っていた戦後史を代表する文化人の一人と最低でも認識していないと、映画がわけが分からなくなってくるだろうなとも思ったのでした。

この映画で三島由紀夫を演じた井浦新、森田必勝を演じた満島真之介は迫真の演技を見せている、気迫というか一途というか武士として死にたいという強い思いが画面から伝わってくるのでした。正直、小説を書く人間が、ここまでするのか!と衝撃的でもあります。太宰治のような心中とは違い日本の行く末を憂い、自身の考えや行動を歴史と記憶に刻み、後の者に託すべく驚くようなパフォーマンス=自衛隊駐屯地に侵入し総監を人質にとり自衛隊隊員らに演説し、切腹により自らの命を断った三島由紀夫とそれに森田必勝ら追随した若者たちの行動。

映画では残された三島夫人・遥子が、「あなたらしい幕引きだった、しかし世の中は何も変わっていない」と独白する場面があるけれど、三島の想いと裏腹に、確かに変わることなく世の中は、さらに天下泰平、そしてバブルへと三島の想いととは違う逆方向に進んでいくことになります。

ならば三島由紀夫の死は犬死にだったのか?三島の行動は日本を変えるには、個人的行動すぎて少しばかり非力であっただけなのだろうと。三島一人と数人の若者ではそれを実現するにはあまりにも数が少なすぎたのだ(三島はとても頭がいい人なので、自衛隊が決起するということははじめから予測などしていない上での自決だったと思うのですが)。

しかし、死後こうして映画まで作られるのは、見逃さざる事件であったのであり、三島由紀夫という存在が語り継がれる度に、彼の小説、思想、行動は新しい世代に新たな発見と気づきを与えてくれるのでしょう。故にけっして犬死ではなかったと。

映画の中の場面、三島由紀夫が自決する前に自衛隊隊員の前で行った演説の場面は、演技とは言え、気迫とカオスが混沌としていたと思いました。役者は相当な想いで臨んだことでしょう。ということで、映画のシナリオから引用を。

『静粛に聞けッ。男一匹が命をかけて諸君に訴えているんだぞ。いいか。それがだ、いま、日本人がだ、ここでもって立ち上がらなければ憲法改正というものがないんだよ。諸君は永久にだね。ただ、アメリカの軍隊になってしまうんだぞ。

シビリアン・コントロールがどこからくるんだ。シビリアン・コントロールというのはだな、新憲法下でこらえているのが、シビリアン・コントロールじゃないぞ!そこでだ!俺は四年待ったんだよ。俺は四年待ったんだ!自衛隊が立ち上がる日を。最後の三十分間だ。最後の三十分、だから今、待ってんだよ。

諸君は武士だろう。諸君は武士だろう!武士ならばだ、自分を否定する憲法をどうして守るんだ。自分否定する憲法というものにぺこぺこするんだ。それがある限り、諸君というものは、永久に救われんのだぞ。諸君は永久にだね、今の憲法は政治的謀略で、諸君が合憲のごとく装っているが、自衛隊は違憲なんだよ!自衛隊は違憲なんだ。貴様たちは違憲なんだ!

憲法というものは、ついに自衛隊というものは、憲法を守る軍隊になってしまったのだということに、どうして気がつかないんだ。どうしてそこのところに気がつかんのだ。俺は、諸君がそれを完全に断つ日を待ちに待っていたんだ。諸君が、そのなかでもただ小さい根性ばっかりに固まって、惑わされて本当に、日本のために立ち上がる時はないんだ。憲法のために、日本を骨なしにした憲法というものに従ってきた、ということを知らないんだ。

諸君のなかに、一人でも俺といっしょに起つ奴はいないのか。一人もいないんだな。よし、武というものはだ、刀というものはなんだ!!

それでも男かッ。それでも武士かあッ。それでも武士かあッ。まだ諸君が、憲法改正のために立ち上がらないということに、見極めがついた。これで、俺は自衛隊に対する夢はなくなったんだ』※『』部分「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(游学社)所収のシナリオから引用

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