シンプルながらも心にしみる現代を舞台とした神話的映画

映画「水を抱く女」(2020年)

■製作年:2020年
■監督:クリスティアン・ベッツフォルト
■出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、他

先日読んだフケーの「水の妖精 ウィンディーネ」をベースに作られたドイツの映画「水を抱く女」。ベルリン国際映画祭・銀熊賞を受賞している作品です。

シンプルなストーリーで登場人物も少ない。ベルリンの歴史をさりげなく織り込み、人間として日々を送る水の妖精ウィンディーネと彼女に絡む男性の物語を、寓意的に、そして、巧みに作られた映像によりグイグイと魅せられました。

全編に流れるバッハの音楽が、幻想的であり得ないような話を格調高くしていました。こうした映像を見ているとヨーロッパの文化の懐の深さというものを感じます。

ウィンディーネは水の妖精であり、彼女は人間と結ばれると魂のない存在から魂を持つ存在となる。そして結ばれた男性が別の女に翻った時、妖精の掟としてその相手を殺さねばならない。

そんなフケーの話をベースに現代に置き換え、新たに出会った水潜夫の男と恋愛関係をリリカルに描いています。コミュニケーションの手段として携帯電話を駆使する現代ともなれば、中世の頃とは二重三重に捻れているだろうから、一人の女性(=水の妖精)と二人の対照的な男性はありだろう、と。

フケーの小説も悲しい感じで終わったのですが、この映画も切ない感じで終わりました。愛する男もためにこの身を捧げ、水中と水面、地上の境界を映し出したラストの映像からエンドロールに至る流れは、映画を見て久しぶりに余韻を感じさせてくれました。

シンプルな話ゆえ、好みが分かれるところだと思いますが、映画で言及されたベルリンはスラブ語で沼地、沼の乾いた場所という意味がある台詞とともに、この映画は私は現代を舞台とした神話のような気がして、いい映画だなと思ったのでした。

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